森林総合研究所北海道支所 研究レポート  No.84


   幾寅天然林における択伐作業による林分被害について
   −望ましい択伐方式をめざして−

                                       佐々木尚三 ・ 石橋 聡
 
           
はじめに
 天然林は、多様な生物が生息し、より自然の状態に近いことから、単調になりがちな人工林より好まれることが多い森林です。また、森林を管理する立場からも、自然力を有効に使って低コストに管理できる「択伐」を主体とした天然林管理は優れた方法と言えます。ところが、そのような管理を行ってきた北海道の森林面積の2/3を占める天然林は、資源量・質共に昔から大きく低下して(3)、もう伐るところがないと言われるまでになってしまっています。択伐を含む全ての林業経営では、生長量の範囲内で森林資源を木材として利用する大原則があるのに、いったいどうしたことでしょう。
 私たちは天然林を適正に管理しその資源を有効に利用しようとする立場から,その障害となる問題の検討を行っています。その一つとして,天然林の伐採作業に伴って発生する立木や林地への被害が、森林を計画以上に消耗させる原因の一つと考え、その程度を調査しています。その結果、それら被害発生量がとても大きいことがわかってきました。この被害が原因で伐採量が予定通りにならないだけでなく、次回の収穫木の価値を著しく低下させたり、立木の配置や間隔に偏りが生じ、次代を担う稚樹の数が極端に減少するなど、森林全体の価値をさらに大きく低下させる恐れがあります。また、伐採作業が森林の地面に与える影響から、樹木の生長が阻害され、土壌が川に流出して流域の環境を悪化させることも心配されます。
 北海道森林管理局上川南部森林管理署管内国有林141林班ろ小班は、標高500m、傾斜5〜20°の北向き斜面に位置する針広混交林であり、1955年より天然林の生長量を測定する試験地として、人の手が加えられない状態で維持されてきました。2002年にこの森林において択伐が実施されたのを機に、私たちはその影響を調べるために2.54haの調査地を設定し(2)、択伐前後における資源内容、植物動態や立地条件(1)、腐朽菌や鳥類の分布などの変化と合わせて、作業による物理的ダメージの調査を実施しました。このレポートでは、この作業ダメージに関して、残存立木への損傷と林地に与えた影響(4)について報告します。
 
伐採作業
 今回の択伐は試験地の2つの調査区とその外周を含む2.3haの林分に対して、2002年11月21〜23日に行われました。伐採作業の手順は以下のようなものです。
 まず、チェーンソー作業者が、事前に選木マークされた立木を伐り倒してゆきます(写真1)。一定の面積の木々を全て伐採する皆伐とは異なり、択伐における伐倒作業は立木のわずかな隙間に木を倒さなければならず、角度の少しの誤差が周辺にある大きな立木の枝や幹に損傷を与えてしまうため(写真2)、特に熟練を要する作業です。このとき伐倒の方向は、作業の安全性・容易性・伐倒木自体を損傷しないことや他の大径木にできるだけ被害を与えない等の観点から決定されますが、低層の中小径木にはほとんど注意が払われないのが現状です。倒した木は梢端部や枝を切り払われて全幹材(長尺の丸太)になります。この区域内の全伐倒本数は49本、幹材積の合計は138.4m3で、伐採木一本当たりの平均材積は2.8 m3でした。2人のチェーンソー作業者がこの作業を終えるのに、ちょうど1日かかりました。
 次の作業として、クローラトラクタによる材の引出し作業(集材作業)が行われました(写真3)。このクローラトラクタは,いわゆるD4クラス(車体重量10トン程度)ブルドーザで、後部には材を引出すためのウインチが装備されています。ウインチのロープを人力で引出して全幹材にくくりつけ、トラクタの後まで引張ります(木寄せ作業)。このウインチは10トン以上の引張り力があり、大径木でも楽々と引出すことができます。反面、重たいロープを人力によって引出す作業は重労働であり、このことからウインチロープの引出し距離を短くしようと、トラクタが林内に分け入って材にできるだけ接近しようとします。このときも小径木への配慮はほとんどなく、多くの木々がトラクタに踏みつけられてしまいます。



写真 1 チェーンソーによる伐倒作業




写真 2 伐倒作業被害




写真 3 クローラトラクタによる集材作業


 ウインチや走行によるけん引作業は、引寄せ方向が材の長手方向に一致していれば周りの立木を損傷することなくスムーズに終ります。しかし、方向を変えなくてはならない場合は材が横方向に引張られ、内側にある立木が傷つけられる可能性が高くなります。これはバスやトラックがカーブするときに発生する内輪差を想像するとわかりやすいでしょう。このとき材を短く切ってから引出すことで、作業が容易になり周辺の立木への損傷も少なくなりますが、作業の効率や丸太の歩留りを高めるために、長いままの材を引出す方法(全幹集材)が一般的になっており、今回もその方法が実施されました。ウインチによって木寄せされた全幹材は、一度に数本がトラクタにけん引されて集積場(土場)に集められます。この作業でも、トラクタの進行方向が変って全幹材の向きが変わるときに、カーブ内側の立木の損傷が発生しがちです(写真4)。                                                                            
 今回の集材作業には通常のトラクタ1台に加えて、グラップルローダが木寄せ作業を補助しました。この機械は通常土場作業用のみに使われますが、道内の比較的緩傾斜地では林内の作業にも使われることも多くなっているようです。材を直接つかんでその方向を変えることが可能であり、うまく使えば作業効率だけでなく損傷を少なくすることも期待されますが、踏みつけや作業アームによる新たな損傷(写真5)の原因にもなっています。以上のようにして土場に集められた全幹材は、樹種、品質、太さ、長さなどが考慮されながらチェーンソーで用途に適した長さに切り分けられ、油圧グラップルローダによって仕分・集積作業が行われました。伐倒後の作業功程は、平均集材距離が185mと短かったこともあって、1.5日間・4人日で終了しました。







写真 4 集材作業被害




写真 5 木寄せ作業被害


 
調査の内容
 択伐の作業に先だって、試験区内をサブプロット(10×10m)に分け、5cm以上の全ての立木について樹種、胸高直径の測定と、立木位置の測量を実施しました。択伐の対象とされた二つの調査区は中傾斜区(傾斜10〜20°、面積0.5ha)との緩傾斜区(傾斜5〜10°,面積1.0ha)です。試験区の面積・立木数・蓄積を表1に示します。立木数、蓄積共に長期間の無施業を経て通常の択伐林より少し高い値となっています。また、斜面の上部にある中傾斜区の立木数は緩傾斜区よりかなり多いことも特徴的です。なお、この試験区は更新などの調査時には択伐天然更新区、択伐植込み区とそれぞれ呼称されています(5)
 伐採中は作業の進行を目視観測し、立木などへの被害発生状況とその原因を記録しました。また、作業終了後は毎木調査した立木全てについて損壊、損傷被害の有無と程度、被害原因等を調査しました。ここで損壊とは幹折れや根返りなど大きな被害を受けてこの先生存が見込めないもの、損傷とは、先折れ、枝折れ、幹への傷などを受けた立木としています。さらに林床の攪乱について、伐倒および集材作業による地表植生や表土の喪失度合いを目視で判別し、地図上に記録しています(図1)。



図 1 伐採搬出作業による残存木と林地被害の状況
矢印太線が伐倒木の倒れた方向・位置・長さを示す
(範囲外へのものは長さを反映しない)。ハッチン
グ部分は伐倒攪乱範囲、ダブルハッチ部分が集材攪
乱範囲である。四角印(伐倒による被害)および、
丸印(集材による被害)はサブプロットごとの被害
木を示す。
                         


 
被害の調査結果
 まず、伐倒作業による被害を見てみます。木を切り倒すことによって多数の立木が被害を受けていることは、作業の目視観測でも数多く見られました。このとき、伐倒に巻込まれた立木が、連鎖的に別の立木に損傷を与える場合も少なからず見られました。損壊した立木本数(ha当たり)は中傾斜区で40本、緩傾斜区では50本と、ともに伐採した本数より多く発生しています(表2)。伐倒木とその巻き添えで倒れた立木の下敷きになった面積は両区平均で29%、緩傾斜区だけでは36.5%に達しました。
 すでに述べているように、伐倒に際して中小径木の損傷にはあまり注意が払われません。特に過半数の本数を占める10cm以下の小径木が伐倒木の下敷になることに関しては、配慮すること自体がかなり難しいことも事実です。そのため、伐倒による残存木への被害は、小径木に集中する傾向があるようです。図2は被害本数を胸高直径階別に示していますが、中傾斜区、緩傾斜区共に8cm階の伐倒被害が非常に多いことが示されています。
 つぎに、集材作業すなわちトラクタと材のけん引走行によるによる被害ですが、これは林床への攪乱(写真6)と立木への損傷(写真4)の2種類に分けられます。林床への攪乱とは、トラクタや材の重量によって地表に生えている植物がはぎ取られたり、むき出しになった表土が固められたりすることがその代表的なものであり、大形の機械を使って大規模な皆伐作業を行っている北米では森林の更新を阻害する要因として大きな問題となっています。今回の調査結果からは、両試験区とも全体面積の約19%がトラクタ走行跡として何らかの攪乱を受けており、そのうちの約5%は表土を喪失していることがわかります(表3)。また、急斜面でトラクタが走行できるように山腹を掘削した集材路が作設されますと、このとき生じる掘削土砂や路面浸食土砂が渓流に流れ込むことが懸念され、注意が必要ですが、今回の試験地では比較的傾斜が緩やかで、新たな掘削集材路の作設もなかったので、土砂流出の心配は必要ないようでした。 つぎに、集材作業による立木被害を見てみましょう。伐倒作業による被害と異なり、集材による被害は幹や枝の一部に損傷を受けるような例が多くなっています(表2)。また、小径木だけでなく胸高直径38〜44cmクラスの中径木集材被害がやや多い(図2)ことも特徴的です。このような被害は踏みつけが原因ではなく、トラクタと材のけん引走行が周辺立木に接触したことが原因です。このことも伐採作業のところですでに述べていますが、特に長い材のけん引作業では周辺の立木を傷つけない作業上の配慮が重要でしょう。
 以上をまとめますと、択伐における伐採作業によって損傷以上の被害を受けた立木の本数は、中傾斜区では択伐前立木本数の11%、緩傾斜区では25%に達しました(表2)。また攪乱面積は、中傾斜区で28%,緩傾斜区では53%でした。図3に両試験区の胸高直径階別立木本数(ha-1)を択伐本数、損壊本数、択伐後残存本数に分けて示しています。この図から、両区とも多くの小径木が被害にあっていることが見て取れ、8cm階被害木本数を伐採前本数と比べた割合は,中傾斜区で21%、緩傾斜区では23%にもなっています。小径木はこの森の次代を担う木々であり、このように、大きく減少することは、択伐林としての保続性に大きな問題と考えられます。伐採搬出作業にあたって、配慮されないことも多い小径木の本数減少を防ぐための対策が必要でしょう。


  
図 2 胸高直径階別被害本数



テキスト ボックス:         胸高直径階(cm)
図 3 胸高直径階別立木本数
積重ねグラフは択伐・自然倒木本数、損壊本数、択伐後残存本数を示している。Pは中傾斜区、Nは緩傾斜区を示す。





写真 6 集材作業による林床攪乱


 
おわりに
 伐採作業に伴う林分への被害はかなり大きいといえますが、ある程度はやむを得ないものです。従って、択伐施業を通じて持続的な天然林管理をおこなうためには、これらのダメージをあらかじめ推定し、計画に盛り込んでおくことが必要です。今後は、今回のような調査例を増やして、もっと一般的なデータとするとともに、被害をできるだけ小さくするため、これまでの作業方法を見直すことも必要でしょう。
天然林の劣化が進むに従って、木材生産はやめるべきであるという意見も多くなっています。しかし、私たちの身近にある森林を資源としても循環的に利用することは、深刻になっている温暖化や地球規模の森林消失問題に答えることにもなるのです。林業をその本来の姿である森林の持続的管理の中で推進することは、今後目指すべき循環型社会の構築にとっても不可欠なことではないでしょうか。
 本試験地の設定、調査に際して、ご協力いただきました北海道森林管理局(旧旭川分局)指導計画課および上川南部森林管理署の方々に感謝いたします。
 
引用文献
(1)阿部真・石橋聡・酒井佳美・佐々木尚三・鷹尾元・高橋正義・山口岳広(2004)幾寅天然林における択伐施業の影響評価−2002年施業後の植生と光の変化−、日林北海道支論52:93〜95
(2)石橋聡・鷹尾元・高橋正義・阿部真・酒井佳美・山口岳広・佐々木尚三(2003)幾寅天然林における47年間の森林動態、日林北海道支論51:114〜116
(3)松田彊(1993)混交林の維持と再生、北方林業46(5):11〜14
(4)佐々木尚三・石橋聡・鷹尾元・高橋正義・阿部真・酒井佳美・山口岳広(2005)幾寅天然林における択伐作業による林分被害について、森利学誌 19(4) :301〜304
(5)森林総研北海道支所(2004)リサーチパンフレット「幾寅天然林択伐試験地」