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   森林総合研究所北海道支所 研究レポート  No.83


   空から見た風倒害
   2004年台風18号が森林に遺した爪痕を探し求める

                                       鷹尾 元


はじめに
 台風18号が北海道を襲った2004(平成16)年9月8日の昼、札幌大通公園に茂る大木が人々の目前で暴風に次々と薙ぎ倒されているころ、人里離れた森林でも無数の木々が将棋倒しに倒されていました。風が止んだ後、森林に駆けつけた人々が見たものは、折れ伏し重なり行く手を阻む木々とその向こうに垣間見える広い空でした。
 どこのヤマが倒れたのかを調べに歩いていこうにも被害の分布はあまりにも広く、しかも手前の倒木に遮られて前に進むこともままなりません。飛行機ですらどこまで飛べば全容を見渡せるのか分からないほど、今回の風倒害の分布は広かったのです。人工衛星なら広くおおよその被害が分かるかもしれません。
 本稿では、台風18号の襲来からひと冬が経った現在までに人工衛星や航空機からの観測により森林の風倒被害の分布がどれだけ明らかにされてきたかを、画像を中心にしてご紹介します。

北海道の風倒被害の概要
 まず、台風の概要を発表された資料から調べてみましょう。台風18号は2004(平成16)年8月28日にマーシャル諸島に発生し、9月7日には九州の長崎市付近を945hPaという大きな勢力で通過、翌8日9時には970hPaで小樽沖を、同15時には宗谷海峡付近を再発達して960hPaで進んだあと温帯低気圧に変わりました(1)。その経路はちょうど50年前の1954(昭和29)年9月26日に北海道を襲い未曾有の被害をもたらした洞爺丸台風とほぼ同じで(2)、同様に道内各地で強風が吹き荒れ、森林にも大きな風倒害が発生しました。
 北海道森林管理局および北海道庁は北海道内のそれぞれ国有林と民有林(私有林、市町村有林、道有林等)の被害の把握に直ちに取り掛かり、約1ヵ月後の10月初めまでに被害の全容を報告しました(3, 4)。それらによると、国有林と民有林ではそれぞれ13,907ha、23,049ha、合計36,956haの森林被害が計上されました。これは、2001(平成13)年の全国の森林伐採面積47,058ha(5)と比べていかに大きな数字であるか分かるでしょう。支庁別に国・民有林の小計を取ると、胆振、網走、石狩などで被害が大きかったことが分かります。ただし注意を要するのは、これらの調査による面積は地上からまたは空中写真を用いた主に目視による概算で、被害の面積を直接計測したものではない点です。これを、人工衛星などから直接観測したらどのようになるでしょうか。



北海道全域の風倒被害
 まず、北海道全域を見てみましょう。図1はMODISという衛星搭載センサーから観測された風倒可能性地域です(6)。MODISは地上分解能が250mとかなり粗い光学センサーですが、一度に広くかつ頻繁に観測できるのが特徴です。この図は、台風の直前(8月26日)と直後(9月16日)の画像からそれぞれ計算された「植生指数」という指標値の変化から風倒が発生したと推定される地点を抜き出したものです。
 白抜きの部分が観測された森林、そのうち赤い点が風倒と考えられる地点です。道北・道央などの一部の森林は雲が掛かっていたため観測されていません。この図を見ると、甚大な被害が確認された苫小牧や札幌などでは衛星画像からも抽出されていることが分かります。一方、根釧地域などでは牧草の刈り取りが誤って森林の被害と判定されている可能性もあります(6)。
 この図は被害発生から2週間後には道庁に速報されたもので、被害分布の大まかな把握とその後の調査に役立ちました。このように、衛星画像で遠くから眺めると、雲が掛かると見えなかったり地上で実際に起きていることを見間違えたりする危険がある一方で、すぐにはたどり着けない奥山でも素早く一度に観測でき、地上からとは異なる視点の貴重な情報源であることが分かります。
 それでは次に、視点をもう少し地面に近づけて森林被害を眺めて見ましょう。

支笏湖周辺の風倒被害
 支笏湖を要として南東に広がる扇形の台地には、主に洞爺丸台風の風害後に植栽された針葉樹人工林が育てられており、ここが台風18号により甚大な被害を受けました(写真1)。この地域の面積は数百km2もあり、地上からの被害の把握は困難を極めます。そこで、この地域を中心として人工衛星からより細かく被害を把握することにしました(7)。
 地球観測衛星SPOTのHRV-XSというセンサーは地上分解能20mで約60km四方を一度に観測します。支笏湖周辺ではMODISと同じく台風の直前(8月26日)と直後(9月16日)に観測していました。そこで、これら台風前後の画像の変化から被害を抽出することにしました。
 ところで、地上分解能が20mの衛星画像では、変化は読み取れても実際にどんな被害が発生しているのかは直接分かりません。そこで、9月15日に観測された高分解能衛星画像QuickBirdを被害の判読に用いました。この画像は空間分解能が0.6mと空中写真にも匹敵します。しかも、一度に広範囲を観測でき(幅約16.5km)、地形による歪みの補正も容易であることや、近赤外線も観測していることなど、空中写真にはない特長があります。
 解析の結果、SPOT画像上に現れる変化は被害の程度により複雑に変わることが分かりました。また、植栽樹種によっても異なることが分かりました。その結果を用いて広域の被害の分布を推定しました。このうちの一部について、SPOTによる推定結果と同じ部分のQuickBird画像とを図2に例示するとともに、図3に解析した全域を示しました。
 苫小牧から札幌にかけての森林の中でも特に支笏湖の東側で大規模に被害が起きていることが分かります(図3)。所々、縞状に被害が起きているのは(図2)、樹種や林齢の異なる人工林が縞状に植えられたことと関係しています。
 北海道森林管理局による国有林の被害状況と比較したところ、樹種別被害面積では衛星画像による推定とおおよそ一致することが分かりました。しかし細かく比較すると、衛星画像によれば、測り漏れがない一方で樹種によっては被害がうまく現れない場合があるなど、衛星画像による推定の特徴が浮き上がりました。
 また、国有林の主な植栽樹種や林齢と被害の関係を解析したところ、カラマツやトドマツはエゾマツやアカエゾマツに比べて明らかに被害が大きく、またトドマツではより高齢な林分ほど被害が大きいことが明らかになりました。ただし、支笏湖周辺の国有林の人工林の林齢構成は樹種により大きく異なり、特にアカエゾマツには若齢林が多く高齢林は少ないのですが、隣接する苫小牧市内の民有林のアカエゾマツ高齢林では壊滅的な被害も発生しています(8)。被害の一般的な傾向については、林齢や樹種、地形など様々な要因を勘案しながら今後解析していく必要があります。








             図3 画像範囲全域での風倒害分布推定図


羊ヶ丘実験林の風倒被害
 最後に、より狭い範囲で細かく被害を観測した例として、当支所羊ヶ丘実験林の被害をご紹介しましょう。
 羊ヶ丘実験林は1912年の山火事の後に再生したシラカンバやミズナラを主体とする広葉樹二次林と(9)、当支所が1974年に当地に移転したのち造成された人工林とからなり、これまで様々な試験研究が行われてきました。ここも台風18号により大きな風倒被害を受けました(写真2)。
 切れ目なく覆っていた実験林の林冠が風倒により破壊されて穴の開いてしまった様子を三次元で計測するために、航空機からライダー(LIDAR, Light Detection And Ranging)による観測を行いました。ライダーとはレーザー光線を照射しその反射から2点間の距離を求める装置のことで、航空機から走査すると地表の高さの分布が分かります。森林では、地表からの反射と木の上からの反射の差をとることで林冠の高さの分布が分かります。そこで、台風前後の林冠の高さを比較して、大きく沈んでしまった所を風倒により林冠が破壊された地点と判断します。
 ここでは、台風後に林冠の高さが5m以上沈下した部分を破壊された林冠として、当支所実験林周辺の被害分布を調べたところ、支所全域やその周辺で大きな被害が発生したことが明らかになりました(図4)。特に、気象観測なども行われている広葉樹二次林(図4@)や、カラマツ(同A)など一部の人工林では壊滅的な被害となったことが分かります。また、沢沿いの河畔林に残っていた大きな木々も多く倒れたことが分かります(同BC)。
 支所実験林全体(苗畑や建物用地を除く)では、約18%の林冠が破壊されていることが明らかになりました。また、20m四方の林冠を単位とすると、全実験林の約半分で林冠が10%以上破壊され、全実験林の約8%では林冠が50%以上破壊されたことが分かりました。
 以上のように、台風の強風により風倒が起きて穴の開いてしまった林冠の分布を航空機から三次元的に把握することができました。しかし、被害を受けた森林資源量はいくらだったのか、倒れたのはどのような木だったのか、などは空からの観測だけでは明らかにはなりません。今後、破壊された林冠のもとで実際に何が起きていたのかを地上で注意深く観察して、それを空から測った林冠破壊の分布と突き合わせて、被害の全体像を明らかにする予定です。また、破壊されて穴の開いた林冠の下から次はどのような植生がいつ回復するのかなど、遷移の過程を明らかにしていくためにも、今後とも空と地上から継続的に観測していく必要があります。






おわりに
 広く見通しのきかない森林の被害状況を把握するために、これまで述べてきたとおり、人工衛星や航空機は非常に強力な情報を提供します。次の段階は、なぜ被害が起きたのか、なぜ防ぐことはできなかったのかなどを明らかにすることですが、これには全体の中から選ばれた代表的な林分の地上での詳しい調査が必要です。その調査は雪が融けたこの春に始まったばかりです。空からの広域の情報と地上での詳しい調査を統合して、初めて被害の全貌が明らかになることでしょう。

謝辞
 北海道環境科学研究センター高田雅之科長には図の引用をご快諾いただきました。北海道森林管理局には被害データを提供していただきました。SPOT画像はJAXA/RESTEC衛星リモートセンシング推進委員会の提供によります。各位にお礼申し上げます。

引用文献
(1) 北海道管区気象台 (2004) 気象速報平成16年9月7日〜9月8日平成16年台風第18号、http://www.sapporo-jma.go.jp/sp/kanku/sp_sub06/data/T1618_sokuhou.pdf
(2) 国立天文台 (2004) 理科年表CD-ROM2005、丸善
(3) 北海道森林管理局 (2004) 台風18号による北海道国有林の風倒木被害状況について、http://www.hokkaido.kokuyurin.go.jp/puresu/taifuu18/10.8puresu.html
(4) 北海道水産林務部 (2004) 平成16年台風18号による水産・林業関係被害の状況、http://www.pref.hokkaido.jp/srinmu/sr-soumu/18go/18goHP.pdf
(5) 総務省統計局 (2005) 日本統計年鑑 54、http://www.stat.go.jp/data/nenkan/index.htm
(6) 高田雅之ほか (2005) MODIS画像を用いた風倒地域の広域的な抽出、リモートセンシングによる森林風倒被害解析報告書、北海道森林災害リモートセンシング研究会編 7-12
(7) 鷹尾 元 (2005) 台風前後のSPOT HRV画像の比較による風倒被害の把握、リモートセンシングによる森林風倒被害解析報告書、北海道森林災害リモートセンシング研究会編 21-28
(8) 菅野正人ほか (2005) SPOT HRV・QuickBird衛星画像を用いた民有林の風倒被害把握、リモートセンシングによる森林風倒被害解析報告書、北海道森林災害リモートセンシング研究会編 29-33
(9) 宇都木 玄 (2005) 森林におけるCO2出入りの仕組みは複雑だ、森林総合研究所北海道支所 研究レポート, No.80