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   森林総合研究所北海道支所 研究レポート  No.81


   トドマツの凍裂−北海道各地の出現状況について−

                           松崎 智徳


はじめに
 トドマツは北海道全域で見ることのできる樹種です。また北海道の林業にとって重要な樹種です。このトドマツでは樹幹に縦の裂け目ができる凍裂を見ることがよくあります(写真−1)。凍裂の発生するメカニズムは完全には解明されていませんが、樹木の中の水分が冬期間の低温で凍結し樹幹に裂け目のできることが原因の一つとされています。凍裂が発生すると材の利用価値が下がりその経済的な損失は大きくなります。また近年林業を取り巻く経済的状況の変化や森林に対する環境保全などの役割重視などのため長伐期施業が推進されていますが(7)、トドマツ施業の長伐期化では凍裂による影響が問題とされています(3)。このように凍裂の発生はトドマツの施業にとって影響が大きいため、その調査・研究は以前から進められていました(5,6)。しかし、それらの研究は地域的に限られた森林を対象としていたためにトドマツの凍裂が北海道各地でどのように出現しているかというような情報は十分ではありません。
 今回はトドマツの凍裂の出現状況の全道的な傾向について調査した結果を報告します。


写真−1 トドマツの凍裂木



凍裂出現の分布図
 凍裂の出現状況の地域的な傾向を分かりやすく示すために出現率の全道分布図を作成しました。分布図の作成のためのデータとして「トドマツ凍裂木・水食い材調査」(1,2)の調査結果を使用しました。この調査は調査表を国有林、道有林、民有林、大学演習林などの各機関に配付し、調査結果を記入してもらい回収するという方法で行われました。調査表には調査林分名、面積、林齢、胸高直径、調査本数、凍裂被害本数、樹幹上の凍裂の位置、被害発生場所、気象環境などの項目が設定されています。実際の調査は1983年11月から1984年3月にわたって68ヶ所の営林署、16ヶ所の林務署、49ヶ所の民有林、1ヶ所の大学演習林で行われました。各々の調査林で凍裂被害本数の調査本数に対する割合からその調査林の凍裂出現率を求めました。
 林齢によって凍裂出現率には違いがあります。このことは凍裂出現率の分布図を作成する際に考慮しなければならない点です。今回のデータで林齢と凍裂出現率の関係を図−1に示しました。林齢が高くなるに従って凍裂出現率も上昇しています。そして林齢70年以上では全ての調査林で凍裂が出現し、それらの林の凍裂出現率は20%から40%の範囲の値となっています。
 調査が行われた当時の営林署の区分ごとに凍裂出現率を平均し、その地域を代表する凍裂出現率としました。そしてそれらの値を各々の営林署の所在地に縦棒の高さで表しました。なお、68ヶ所の営林署で調査が行われましたが、分布図作成に有効なデータが無い地域もあったので56ヶ所の営林署にまとめて結果を表示しました。前述したように林齢によって凍裂出現率は変わるため、林齢50年以上と50年未満に分けて分布図を作成しました(図−2、3)。林齢50年以上では道東地域で出現率が高く、道南地域や日高地域の沿岸部で低い傾向が見られます。50年未満でも道南地域や日高地域の沿岸部で低い傾向が見られます。
 この結果で示されたような凍裂出現率の違いに影響しているそれぞれの地域の環境条件は何でしょうか。今回の調査データから環境条件と凍裂出現率の関係を見てみましょう。降水量や積雪と凍裂出現率との間には相関関係は見られません(図−4、5)。調査林分の標高と凍裂出現率には正の相関が見られます。分かりやすくするために標高100mごとに凍裂出現率を平均した結果を図−6に示します。標高の高い林分では凍裂が多く出現する傾向が見られます。
 標高の高いところで凍裂が出やすいことや地域によって出現率に違いがあることには気温が関係していると考えられます。気温と凍裂出現状況との関係を幅広い地域のデータで調査した例はなく、今回使用した調査データにも気温に関するデータはありません。今後アメダスデータなどを利用し気温と凍裂出現率との関係を検討していく必要があります。
 林齢が高くなるに従って凍裂出現率が高くなる傾向があったことは材の利用の面でトドマツ施業の長伐期化について問題となります。しかし、出現率は20%から40%の間となることが多く、全ての木が凍裂になることは希ですから、間伐などで早めに凍裂木を伐採すれば凍裂木の少ないトドマツ林を維持することは可能だと考えられます。ただし、地域や環境条件によって出現率が変わる可能性があるため、凍裂の出現しやすい場所での長伐期施業には成長などの他の要因も含めて慎重な検討が必要です。


図−1 林齢と凍裂出現率の関係


図−2 凍裂出現率の全道分布図(林齢50年以上)
  注)縦棒の高さが各地域での出現率の平均値を表す。



図−3 凍裂出現率の全道分布図(林齢50年未満)
  注)縦棒の高さが各地域での出現率の平均値を表す。


図−4 年降水量と凍裂出現率の関係


図−5 積雪と凍裂出現率の関係


図−6 標高と凍裂出現率の関係



スギにおける凍裂の調査例
 凍裂はトドマツだけでなく多くの樹種で見られる現象です。その中でもスギについては重要な造林樹種ですから多くの調査が行われています(5)。それらの結果では凍裂出現率は30%位が上限となる場合が多く、全ての木が凍裂木となる報告はありません。また、東北地方におけるスギの凍裂出現状況の調査では奥羽山脈側に多く、太平洋や日本海の両岸に近づくに従って低くなる傾向があるとしています(4)。林齢が高くなるに従って凍裂出現率は高くなるが、全ての木が凍裂木とはならず出現率は一定の範囲で収まることや、標高の高い地域で凍裂が発生しやすいことは今回のトドマツの結果と一致しています。



今後の検討課題
 トドマツでは心材(材の中心部)の含水率が辺材(材の周辺部)の含水率より低いのが通常とされていますが、中には心材でも多くの水分を含む材があります。これを「水食い材」と呼んでいます。材の中の水分が凍結することが凍裂発生の原因の一つと考えられることや、凍裂木を伐採してみるとほとんどが水食い材を内包していることから、凍裂の発生には水食い材の存在が関係していると言われています(5,6)。水食い材の出現状況と凍裂の出現状況との関係ついての検討も必要です。



引用文献
(1) 林康夫(1983)トドマツ凍裂木・水喰材調査.森林保護(177):33-35
(2) 林康夫(1985) トドマツ凍裂木・水食い材調査.森林保護(188):29
(3) 平川泰彦(2002)長伐期と林木の材質.わかりやすい林業研究解説シリーズ110「長伐期林の実際−その効果と取り扱い技術−」:115-130. 林業科学技術振興所.
(4) 今川一志ほか(1996)東北地方におけるスギ凍裂の発生実態.森林総合研究所研究報告(371):1-42
(5) 今川一志(1997)わかりやすい林業研究解説シリーズ106「樹木の凍裂−発生状況とその原因−」.林業科学技術振興所.88pp
(6) 石田茂雄(1986)トドマツの凍裂.北方林業会.190pp
(7) 社団法人日本林業協会(2001)平成12年度林業白書(林業の動向に関する年次報告).340pp