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   森林総合研究所北海道支所 研究レポート  No.80


   森林におけるCO2出入りの仕組みは複雑だ

                           宇都木 玄


はじめに
 地球規模で問題になっている温暖化現象は、北海道でも観測されており、札幌市では平均気温が1960年代に比べて約1℃も上昇しています。温暖化の原因として大気中の二酸化炭素(CO2)を中心とした温室効果ガス濃度の上昇が指摘されており、その排出抑制のための取り組みが国際的に討議されています。産業革命以降、石油消費量の増大にしたがってCO2が増大し、また森林などの植生破壊もCO2を増加させる重要な要素と考えられます。陸上生態系の炭素蓄積量は大気中の炭素量の3倍以上あると考えられ、特に森林による炭素蓄積量は最も大きくなります。したがって森林の炭素蓄積量を正確に把握し、それをできるだけ大気に放出しないことが重要です。さらに森林による炭素固定機能を利用して、積極的にCO2の上昇を抑制する技術も重要となります。こうした背景のもと、地球規模でのCO2の変化を予測する計算(シミュレーションモデル)が世界中で開発されてきました(7)。植物群落では光合成と呼吸によるCO2の出入りがありますが、これをCO2収支と呼びます。森林のCO2収支を扱うモデルは地域性(樹種や地形、気候などが異なる)が非常に強いため開発が遅れています。森林によるCO2収支を予測するためには、以下の3つの手法が必要です。1)森林の幹・枝・葉・根の量(現存量)を測定し、その時間的な変化からCO2吸収量を推定する(積み上げ法)。2)森林と大気の境界でCO2収支を直接観測する(渦相関法)。3)個々の葉の光合成速度、林冠構造(葉の量や着き方など)、林内の環境条件を一つ一つ調査し、それらを計算上で統合してCO2収支を推定する(林冠光合成モデル)手法です。積み上げ法の歴史は古く、樹木に蓄積された炭素の量を推定するために最も精度の高い手法です。しかしこの手法は現状の状態を把握しているだけで将来を予測することはできません。渦相関法による観測は非常に広範囲にわたってかつ連続してCO2収支を測定できる点に特徴があります。最終的にはモデルからCO2収支を予測しなければなりませんが、そのモデルが正しいかどうか検討するためにも、前述の2手法によるデータ蓄積が重要となります。森林総合研究所北海道支所でも上記を踏まえ、北方系落葉広葉樹林におけるCO2収支に関して研究を進めています。ここでは、積み上げ法によりわかってきた地上部の現存量(幹・枝・葉の量)と枯れ落ちてしまう量(リター量)、およびCO2吸収量(生産量)の推定結果を紹介します(11,13)。また森林のCO2吸収量に最も影響を与える林冠構造について解説し、林冠光合成モデルに対する役割を述べたいと思います。なお森林のCO2収支には土壌の影響も重要になりますが、これは研究レポート74(6)を参考にしてください。



試験地の概要
 試験地は森林総合研究所北海道支所の実験林(42°59’N, 141°23’E, 標高180m、年間平均気温は7.1度、年間降水量は957mm)です。ここは1912年の山火事跡地に再生した、シラカンバとミズナラの優占(胸高断面積合計の75%を占める)する落葉広葉樹二次林です。他に樹冠を構成する主要樹種としてはハリギリ、ドロノキ、シナノキがあげられます。胸高直径(地上1.3mの幹の直径、DBHといいます)5cm以上の個体を調べると、立木密度は672本ha-1、平均樹高18.3m、平均胸高直径23cmになります。



森林の現存量の推定
 森林の現存量の推定には、複数の樹木を伐採して幹(WS)・枝(WB)・葉(WL)の重量を測定します(伐倒調査)。伐採した木のDBHや樹高(H)と、幹・枝・葉量の関係を調べると(図−1)、非常に強い相関関係があることがわかります(アロメトリー関係)。次に毎木調査(ある面積に対して、そこに生育する全樹木のDBHと樹高を測定する調査)をおこない、アロメトリー関係を適用して全樹木の幹・枝・葉の重量を計算し、森林の現存量を推定します(表−1,表中のMgとはtonと同じです)。試験地での地上部現存量を計算すると、乾燥重量で188Mg ha-1(炭素換算で約94Mg-C ha-1)の蓄積があることがわかり、幹の蓄積は全体の80%を占めています。根の現存量は測定が困難であるため、現状では正確な数字が得られていません。仮に地上部の30%と仮定した場合、現存量は122Mg-C ha-1と試算されます。


図−1 試験地における、ミズナラ・ハリギリ・シラカンバのアロメトリー関係。図中の各点は一個体のデータである。軸はすべて対数変換して示されている。

表−1 2003年4月の試験地の樹種別・部位別現存量
Apr.-2003 合計
種  名 (Mgha-1) (Mgha-1) (Mgha-1) (Mgha-1)
シラカンバ 79.60 15.57 1.70 96.87
ミズナラ 48.35 13.28 1.20 62.83
ハリギリ 3.86 1.10 0.13 5.09
その他の樹種 17.51 4.86 0.46 22.83
合  計 149.32 34.81 3.49 187.62




リター量の推定
 リター(Litter)量とは、森林の枯死量に相当し、主に次の二つに分けられます。一つは生きている個体からの小型の枯死脱落量(葉や小枝;Fine Litter:FL)です。二つ目は、枯死個体や大風などで突発的に生じた枝・幹などの大型の枯死脱落量(Coarse Litter:CL)です。私たちの試験地では以下のようにリター量を測定しています。FL量は、リタートラップ(0.54m2ほどの開口部を持った網袋)を林内に数十箇所設置し、定期的にトラップ内の落下物を回収します。枯死個体量は定期的な毎木調査(数十年間)から死んだ個体を確定し、前述のアロメトリー関係からその量を推定しています。また大型の枝・幹について、巨大なリタートラップ(開口部15m×20mほど)を設置して落下物を回収しています。これらの結果、年間のFLは4.61Mg ha-1 year-1(2000〜2003年の平均)、CLは1.38Mg ha-1 year-1(1998〜2003年の平均)と推定されました。森林の葉量を正確に推定することは難しいのですが、FL内の葉量(3.50Mg ha-1)とアロメトリーによる推定値(表−1)は一致し、精度よく葉量を測定できています。一般に発達段階にある森林(若い森林)では枯死個体量が少ないため、CLの測定例は多くありません。しかし成熟した森林では枯死個体量が多くなり(ここでは全リター量の23%)、今後の情報の蓄積が重要となります。



生産量の推定
 森林の生産量(純一次生産量;Net Primary Production:NPP)とは、ある期間に植物が作った幹や葉などの有機物の総量を意味します。人間でいえば食物(CO2)を食べることで成長した量と、垢や排泄物(リター量)を足した量になります。純一次生産量はNPP=ΔY(t1-t2)+L+Gで表すことができます。ΔY(t1-t2)は「t1」および「t2」時点での森林の現存量を差し引きした値、Lは同期間内でのリター量(FL+CL)です。Gは同期間内における被食量ですが、通常は前二者に比べて小さいので無視します。毎木調査やリターの回収を数年間にわたり継続することで、NPPが計算できるようになります。1998〜2003年のデータから、前述の式に基づき1年間の平均的な地上部のNPPを試算したところ7.29Mg ha-1 year-1(炭素換算で3.64Mg-C ha-1 year-1)となりました。このうちリター量が82%を占め、リター量を正確に知ることがNPPの推定に重要であることがわかります。仮に根が地上部NPPの30%であると仮定すると、試験地でのNPPは4.53Mg-C ha-1 year-1と推定されます。この数字は本試験地で大気−森林間のCO2交換量(渦相関法)として推定されたNPP(2.5〜5Mg-C ha-1 year-1(10)と比較して、互いに妥当であると考えられます。



森林の林冠構造はなぜ重要なのか?
 植物の葉は大気中のCO2を植物体内に取り込み、幹や葉などの有機物を作り出します。CO2を植物体内に取り込む過程は「光合成」と呼ばれ、これは光・水分・CO2・温度といった林内の環境条件に影響されます。例えば光は光合成のための重要なエネルギー源ですが、過剰な光は高温を伴って光合成に障害を与えます(8)。また葉の気孔(CO2の出入り口)の開閉には大気の水分(湿度)が重要になります。森林内では梢端から林床まで、だんだん暗くなることは簡単に想像できます。こうした光の変化に合わせて、葉は厚みや窒素量(光合成に重要な成分)を変え、光合成能力を光に順応させることができます(3)
 森林の林冠構造とは、光合成や呼吸がおこなわれる葉・幹・枝の量や、それらがどの高さにどれだけあるのか(垂直分布)を意味します。したがって現存量も林冠構造の一種といえます。しかしさらに重要なことは、林冠構造が林内の環境条件を決めてしまうことです。森林レベルでCO2収支を理解するために、林冠構造を正確に知らなければなりません。



林冠構造・・・森林の葉面積
 森林の葉面積は、光合成がおこなわれる面積として重要です。大雑把に見た場合、森林の葉で受けた光の量は、森林の生産量と相関関係があります(9)。落葉樹林の場合、葉面積は季節的に大きく変化するため(開葉−展開−充実−落葉)、葉面積の季節変化を精度よく推定することは、森林内の光環境条件(12)、さらにCO2収支の仕組みを明らかにするために重要です。
 単位土地面積あたり、その上部にあるすべての葉面積を積算した値を葉面積指数(LAI:m2 m-2)といいます。本試験地では、前述の伐倒調査によって夏のLAIは約5.9と推定されています。しかし、LAIの季節変化を伐倒調査から知るためには、毎月調査をしなければならず、まず不可能です。そこで有効なのが全天空写真などの光学的手法を用いた推定方法(14)です。これは、魚眼レンズ(180度で撮影できるレンズ)を利用して、定期的に林床から真上の林冠部を撮影する手法です。この画像からコンピューターを用い、effectiveLAI(Le(2)といわれる指数を計算します。さらにLeを伐倒調査から得られたLAIを用いて補正し、LAIの季節変化を推定します(11)。2003年の例では、試験地のLAIは4月から5月下旬にかけて急速に増加し、6月下旬から9月上旬まで安定していました。LAIの減少は9月下旬には始まっており、11月上旬には落葉を完了しています。これらのことから十分に着葉していると考えられる期間が約4ヶ月間(6月〜9月)、開葉および落葉期間はその前後の1〜1.5ヶ月間であることがわかりました(図−2)。


図−2 2003年における試験地でのLAI、Leの季節変化。は標準誤差である。試験地では、LAIはLeを約1.29倍した値であった。



林冠構造・・・葉面積と窒素の垂直分布
 森林の環境条件の中で、光合成に最も強く影響するのは光環境条件です。森林では林冠上部は明るく、下部になるにつれて急速に暗くなります。こういった光の減衰は葉面積の垂直分布によって決まり、その減衰程度に対応して葉内窒素量が変化します。光合成能力(例えば最大光合成速度などの潜在的能力)は葉内の窒素濃度と相関が強いことが知られています(1)。また、現実の光合成速度は光強度に左右されるので(図−3)、森林のCO2収支を考える場合、葉面積と窒素濃度の垂直分布を理解することが重要です。そこで伐倒調査の結果を応用して(15)、葉面積と光環境条件および窒素量の垂直分布を調べました(図−4)。林分梢端から葉面積が増大し、地上高19m前後に最も葉面積が多く、そこから林冠下部までだんだんと葉面積が減っていくのがわかります。それに合わせるように光も19mあたりまで急激に減少し、 その後はゆっくりと減少していきました。窒素量は林冠上部に多く、下部にしたがい減少しました。このことは林冠上部の葉は下部の葉より高い光合成能力を持つことを表しています。つまり林冠梢端では強い光を、下部では弱い光を効率よく利用できるようになっているわけです。
 実は光には、曇りの日に比較的多い散乱光(天球全体から来る光)と、快晴日に多い直達光(太陽面から直接到達する光)があり、林内への入り方がそれぞれ異なります。林冠の構造がわかれば、直達光や散乱光を分けて光環境条件を推定することができます(4)。特に散乱光の光合成生産量に与える影響は現在非常に重要な問題として認識されつつあり、例えばピナツボ火山の噴火による散乱光の増加が、森林の生産量を増大させた可能性が報告され(5)、話題を呼んでいます。


図−3 光の強さと光合成速度の関係。光が強くなると光合成速度が上昇する。光合成速度の最大値(最大光合成速度)は窒素濃度と相関する。


図−4 試験地における、葉面積と光環境条件および窒素量の林冠内の垂直分布。各層は1mの厚みを持つ。光条件は散乱光のみを取り扱った。は標準誤差である。(葉面積は、1mの層の厚みをもつため、m2 m-3となる)



おわりに
 森林群落によるCO2収支を予測するには、1)森林の現存量を精度よく把握し、2)光合成反応を調べ、3)林冠構造の季節的・垂直的変化を明らかにし、4)それらに基づいた林冠内の環境条件と光合成特性からモデルを構築する。さらに5)モデルの妥当性を、1)で得られた情報や渦相関法等を元に検証する、という複数の段階を踏む必要があります。ここでは1)と3)を明らかにし、数値化することができました。特に今回示したように葉面積の季節による変化、また深さ方向での林冠構造や環境条件の変化は劇的であり、林冠構造は森林のCO2収支を考えるために重要な視点となります。



引用文献
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(3) Ellsworth D.S. and Reich P.B. (1993) Canopy structure and vertical patterns of photosynthesis and related leaf traits in a deciduous forest. Oecologia, 96: 169-178.
(4) Forseth I.N. and Norman J.M. (1993) Modeling of solar irradiance, leaf energy budget and canopy photosynthesis. In: Hall D.O., Scurlock J.M.O., Bolhar-Nordenkampf H.R., Leegood R.C. and Long S.P.(eds.) Photosynthesis and production in changing environments. pp 207-219.
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(9) Landsberg J.J. and Waring R.H. (1997) A generalized model of forest productivity using simplified concepts of radiation-use efficiency, carbon balance and partitioning. For. Ecol. Manage., 95: 209-228.
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(11)佐藤桃子他 (2003) 札幌市郊外の落葉広葉樹林における現存量に関する諸量の推定(U). 日林北支論, 52: 102-104.
(12)宇都木玄他(2001) ヒノキ人工林における葉面積指数の季節変化の推定. 日林誌, 83: 359-362.
(13)宇都木玄他 (2003) 札幌市郊外の落葉広葉樹林における現存量に関する諸量の推定(T). 日林北支論, 52: 99-101.
(14)Welles J.M. (1990) Some indirect methods of estimating canopy structure. Remote Sens. Rev., 5: 31-43.
(15)Yang X., et. al. (1999) Vertical overstory canopy architecture of temperate deciduous hardwood forest in the eastern United States. For. Sci., 45: 349-358.