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   森林総合研究所北海道支所 研究レポート  No.79


   上から下から測ったシベリアのカラマツ林

                           鷹尾  元


はじめに
 ここでは、地上調査と衛星画像解析を組み合わせて、ロシア連邦ヤクーツク市周辺の永久凍土地帯に広がるカラマツ林のさまざまな成長段階(サイズ)の分布を明らかにした研究を紹介します。まず、そもそもなぜロシアの森林なのでしょうか。
 ロシアや北欧諸国、カナダやアラスカなどには、北方林と呼ばれる主に針葉樹の森林帯が広がっています。この地域では冬は非常に寒いのですが、夏は暖かく、たとえ非常に乾燥していても、地下の永久凍土が融けて水分が樹木に供給されます。土壌中の低温と水分飽和により有機物の分解速度は遅く、その結果、土壌中に大量の炭素が蓄積されます。全世界の森林に蓄えられた炭素のうちほぼ半分が北方林にあり、その大部分が土壌中に存在します。
 地球温暖化による気候変動は、北方林の地域で最も大きいと予測されており、気候変動に伴う植生撹乱(森林火災、病虫害など)の増加と植生の変化、それらによる炭素の大気中への放出と地球温暖化の加速が恐れられています。さらに、温暖化や撹乱増加により永久凍土の融解が限界を超えて、森林が湿地化、草地化し、二度と森林に回復しない場合もあります。
 地球温暖化が懸念される中、このような不安定な植生である永久凍土上の北方林が過去に撹乱を繰り返し受けた結果、現在どこにどのくらいの大きさの森林が分布しているのかを明らかにすることは、その地域の森林の今後の取り扱いを決める上での最も基礎的な情報となります。
 そこで、ロシア連邦サハ(ヤクート)共和国の首都ヤクーツク市周辺でカラマツ林の成長段階や地上部バイオマスの分布を調べる手法を開発しました。その手順は2段階にわたります。まず、調査地点を設定し、その地点での森林調査によりカラマツ林の林木のサイズと林分全体の量の関係を明らかにしました。次に、それらと衛星画像上の明るさとの関係から、調査していない地点も含めた地域全体の分布を推定しました(1)
 森林は広く、木々は高く人の視界をさえぎり、森林の中を歩くだけではその分布の全容は決してつかみきれません。しかし、空の上からの目を加えると、訪れたことのない森林についても見てきたような話ができるのです。



ヤクーツクのカラマツ林
 ヤクーツクは大河レナ川沿いの都市で、東経129度、北緯62度(長崎市の真北約3000km)に位置します(図−1)。地形は河岸段丘で、レナ川沿いの標高差約100mの断崖以外はおおむね平坦な台地が広がります。気候は厳しく、年最低気温は氷点下55〜60度にまで下がる一方、年最高気温は30〜35度に達します。年間降水量は200mm程度ですが、夏季には永久凍土の融解により樹木の成長に十分な水分が地下から供給されます。
 森林を構成する主要な樹種はカラマツ(Larix cajanderi Mayr.)で、ほぼ純林を形成します(写真−1)。シラカンバ(Betula platyphylla Sukatschev)が混交する場合もあります。ヨーロッパアカマツ(Pinus sylvestris Linn.)は乾燥した砂質土壌上に生育します。


図−1 研究対象地の位置

(a)非常に密な若齢林 (b)壮齢林 (c)疎林
写真−1 ヤクーツクのカラマツ林




地上でのカラマツ林調査
 限られた調査日程の中でできるだけ効率的に満遍なくヤクーツク周辺の森林を代表するさまざまな林相の現地調査を行うために、まず衛星画像の「教師なし分類(画像をコンピュータで自動分類してから分類ごとに土地被覆の名前を与える方法)」を行って対象地全域をいくつかの土地被覆に分類しました。それぞれの土地被覆からその面積に比例した調査地点数を得られるように留意しながら道路・林道から50m以上離れた地点に調査林分を設定し、最終的に合計58点の林分調査を行いました。そのうち、胸高断面積合計でカラマツが50%以上を占める平坦な23地点をカラマツ林分として解析の対象としました。
 各調査地点では、ポイントサンプリングによる林分調査を行いました。この方法は、林内のある中心点からその周りの全方位の立木をレラスコープという道具を通して見て、幹がある太さ(角度)以上ならばカウントしてその胸高直径と樹高を計測する測定方法です。この方法によれば、林分胸高断面積合計はカウント数に比例するほか、平均樹高、平均直径なども算出できます。この方法では、立木が小さければ中心点から近い木しか計測せず、大きければ遠い木まで計測して、計測される木の本数を一定に近づける傾向があり、調査区画の設定を行わなくてもいい点とあいまって、短い時間で調査を行える利点があります。
 計測された胸高直径、樹高から地上部のバイオマスへの変換には、北海道大学のグループが同一地域で求めた変換式(2)を使いました。
 計測値の解析を行ったところ、林分胸高断面積合計は平均個体サイズによらず一定値(約25m2/ha)を超えないこと、相対幹距(平均樹高に対する平均立木間距離の比)は平均個体サイズが大きくなるにつれて大きくなることなど、通常の日本の森林では見られない永久凍土上独特の林木の成長の様式が明らかになりました。



衛星画像によるカラマツ林分布の調査
 ここではまず、地上で調べたカラマツ林の特徴と衛星画像上でのその地点の明るさとの関係を解析しました。その後、その関係を元に直接地上では調べていない地点の特徴も衛星画像上で推定して、地域全体の分布を推定しました。
 この研究では、地上が雪に覆われた1999年10月30日のランドサットTM画像を用いました(図−2)。通常、衛星で植生を観測するときには葉が茂っている夏の画像を用います。しかし積雪期の画像を用いた理由は、林冠が比較的に疎である北方林では衛星から木の下の林床まで見えることがあり、林床の植生はコケモモなどが繁茂している場合から火災などにより無機質土壌が露出している場合まで非常に多様なので、高木だけを観測するためには林床が一様に雪に覆われているのが都合がよいからです。また、目的樹種のカラマツは落葉樹であり、次に主要な樹種のヨーロッパアカマツは常緑樹なので、冬にはそれらの判別も容易です。さらに、この地域では夏よりも冬から春にかけてのほうが晴天率が高く衛星画像の取得可能性が高いことも実用上重要な点です。これまで、積雪期の森林の衛星画像によって、森林の影響を排した積雪の観測は多く行われてきましたが、森林の定量的な観測はほとんど行われてきませんでした。Takao(3)は積雪期の衛星画像が森林での林業活動や撹乱の発生とその後の回復のモニタリングに有効であることを示しました。
 ここで、人工衛星で観測される「光」と、木や葉、雪の「色」に触れておきましょう。衛星画像のうちランドサットTMのような光学センサーで取得されたものは、太陽光の地表での反射を捕らえています。太陽光にはさまざまな波長の光が混ざっていて、物体により波長ごとの反射率が異なるため、太陽光に照らされてその物体に特徴的な色が見えます。人間の眼には可視光線(波長0.4〜0.7μm)を赤、緑、青の3原色に分けて感じられますが、ランドサットTM画像ではそれよりも広い波長0.45〜2.35μmを6つのバンドに分けて観測します。植物の葉は可視光線の反射率は低く近赤外線(波長0.7〜1.3μm)は高い特徴があります。木の幹や枝の反射率はどの波長でも概ね低くなります。雪は肉眼には白く見え、確かに可視光線の反射率は高いのですが、中間赤外線(波長1.3μm〜)では反射率はほとんど0となります。波長ごとの反射率を分光反射率といい、分光反射率(つまり、色合い)が大きく異なるものほど、ランドサットTMのような多バンドセンサーの画像で区分がしやすくなります。
 それでは、地上で計測されたカラマツ林が衛星画像上でどのような反射を示しているのか、積雪の反射が高い可視バンド(W2)を横軸、低い中間赤外バンド(W5)を縦軸とした散布図で見てみましょう(図−3)。図中の数値はそれぞれ林分胸高断面積合計(図−3(a))、平均胸高直径を示しています(図−3(b))。右上のW2W5ともに値が高い部分は、立木がほとんどなく積雪が多く露出している明るい林分です(W5の絶対値は高くない)。左上はW2が低くなり、落葉したカラマツに覆われている林分です。その中間に位置する林分は両端を結ぶ直線上にではなく、垂れ下がった「レ」の形に並んでいます。この部分は、立木の影で林床に光が当たらず、そこを衛星から立木を透かして観測するためにW2W5ともに最も暗くなります。これは、森林が立体的な構造をしているために起こる複雑な反射の現象です。
 衛星画像と地上計測データの比較の結果、可視光線の反射(W2)は林分胸高断面積合計と負の相関があることが明らかになりました(図−3(a))。これは、晩秋の低い太陽高度(13度)のためにかなり疎な森林でも林床は立木の影に覆われて日が当たらなくなるという林冠の全天写真解析の結果(4)とおおよそ一致しました。一方、中間赤外線の反射(W5)は林分胸高断面積合計が約25m2/haに達した林分で平均胸高直径と負の相関がありました(図−3(b))。一般に林木が成長すると林冠に陰が増えて上から見ると全体的に暗くなりますが、これらのカラマツ林では相対幹距も増えて林床の影も見えるようになり、さらに暗くなるものと思われます。
 W2およびW5がそれぞれ林分の相対密度(林分胸高断面積合計)と平均個体サイズ(平均胸高直径)に関連していることが明らかになったので、これらの衛星バンドから林分の地上部バイオマスへの重回帰を求めたところ、次のような式が得られました。
 
 log(AGB) = 3.92 - .082 W 2 - .034 W 5
                  (R 2 = .69, n = 23)
 
 ここで、AGB:地上部バイオマス[t/ha]。この関係を元に、対象域全域でのカラマツ林の地上部バイオマスを衛星画像から推定しました(図−4)。また、W5から平均胸高直径の分布も求めました(図−5)。これらの図によれば、地上部バイオマスや平均胸高直径が異なる林分がパッチ上に分布していることがわかります。全体的には北部のほうがバイオマスが大きく、南部はバイオマスが小さくなります。これは、南部に行くに従い水はけの悪い土壌になるのと一致しています。一方、レナ川西岸に比べて東岸では平均胸高直径が小さな林分が多く分布しています。これは、ヤクーツク市がある西岸では森林が保護されているので伐採などの撹乱が比較的少ないのに比べ、東岸では農家による伐採や小規模な火災が頻繁に起きるために若い林分が多いからです。西岸にもパッチ状に若い林分が存在しますが、これらは近い過去に強度の火災をこうむった結果であると考えられます。このように、衛星画像を用いてカラマツ林の林木のサイズと林分全体の量の分布を広域にわたり推定することができました。


図−2 使用した衛星画像
ランドサットTM画像、1999/10/30取得、R: Band 5, G: Band 4, B: Band 3

(a)林分胸高断面積(m2/ha , 図中の数値) (b)平均胸高直径(cm , 図中の数値)
図−3 衛星画像の可視バンドと中間赤外バンド上でのカラマツ林分の散布図
W2: 可視バンド(バンド2)のDN(デジタルナンバー)、W5: 中間赤外バンド(バンド5)のDN


図−4 衛星画像から推定されたカラマツ林の地上部バイオマス(AGB)の分布
     
(範囲、方位は図−2と同じ)


図−5 衛生画像から推定されたカラマツ林の平均胸高直径の分布
     (範囲、方位は図−2と同じ)




森林のインベントリーとモニタリング
 以上のように、永久凍土上のカラマツ林という特殊な植生を対象として、まずその植生の現地調査により林分の状態と衛星画像上の反射との関係を解析し、それを元に衛星画像により広域での植生分布の推定を行いました。使用する衛星画像としては、その地域の植生および気候の特殊性を考慮して、これまであまり用いられてこなかった積雪期の画像を採用しました。
 一般に、森林を管理するために対象となる森林を調査するのにはインベントリーとモニタリングの2種類があります。インベントリーは管理の計画を立てるのに先立ち現状を知るための調査です。一方、モニタリングは管理の結果が予定通り現れているかどうかを監視するための調査です。ここでは永久凍土地帯でのカラマツ林の現状を知るインベントリーのひとつの方法を示しました。もちろん、この手法を時間を追って繰り返し用いることにより、変化を追いかけてモニタリングにも用いることができます。さらに、1972年にランドサット1号が打ち上げられてから既に30年以上の時が経っているので、現状の森林の由来を知るために過去に取得されたランドサット画像を用いて過去に遡ってモニタリングをすることもできます。
 つまり、人が歩いて調査するには広すぎ、かといって地球上では小さな点に過ぎないある地域の、歴史を重ねた森林を観察するときに、その地域特有の植生と気候を知り、利用可能な過去および現在の衛星画像を用いることによって、実際には体験できない時間・空間旅行を体験できるのです。
 ここで紹介した方法には実用化に向けてまだ解決すべき点がいくつもあります。まず、地上で計測した数値と衛星画像には統計的に有意な関係が見られましたが、実用上十分な精度を得るためにはまだまだ多数の地上観測が必要です。また、ここでは1999年10月30日の画像における林分との経験的関係を元に解析を行いましたが、太陽高度や積雪の反射率が異なるほかの季節ではどうなのかも検討する必要があります。しかし、取得可能性が高いにもかかわらずこれまで使われてこなかった積雪期の画像を用いて、森林の構造を表せる可能性を示した点に、新たな手法としての意味があります。これまで植生観測にとって無意味であった北方林の長い冬が観測に適した季節となるでしょう。北海道でも、積雪期である冬から春にかけて晴天率が高い道東地方などでは、このような手法は有効であると思われます。貴重な北方の森林の適切な管理のために、空の上から得られる情報はまだまだ沢山あるでしょう。



謝辞
 この研究はJST戦略的基礎研究「温暖化ガスにかかわる永久凍土攪乱の抑制技術開発(研究代表者:北海道大学低温科学研究所 福田正巳教授、H10-15)」により行われました。研究遂行に当たり、福田教授をはじめ日露の関係各位からご協力をいただきましたことに感謝いたします。



参考文献
(1) TAKAO, G., KUSHIDA, K., MAXIMOV, T.C. et al. (2001): Biomass estimation of taiga forests in Yakutsk with winter LANDSAT7 ETM+ image in ed. Fukuda, M and Kobayashi, Y., Proc. 9th Symposium Joint Siberian Permafrost Studies between Japan and Russia in 2000, 247 - 253
(2) TSUNO, Y., SHIBUYA, M., SAITO, H., TAKAHASHI, K. et al. (2001): Aboveground biomass, nitrogen and carbon contents in Larix stands in eastern Siberia in ed. Fukuda, M and Kobayashi, Y., Proc. 9th Symposium Joint Siberian Permafrost Studies between Japan and Russia in 2000, 68 - 74
(3) TAKAO, G. (2003) Indices from snow-covered Landsat imagery for boreal forest change detection, 日本写真測量学会誌 42(6): 52 - 66
(4) 鷹尾 元 (2004) 全天写真から見たシベリアカラマツ林の構造、日本林学会北海道支部大会論文集 52:154-156