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   森林総合研究所北海道支所 研究レポート  No.76


   トドマツの仮道管長

                           松崎 智徳


はじめに
 木材の大部分は繊維状の細胞で構成されており、トドマツのような針葉樹では約90%が仮道管である。これら仮道管の長さは紙の性質との関連、さらには未成熟材の範囲のような樹幹内の材質変動を示す指標として重要である6)。図−1に天然林で伐採されたトドマツの仮道管長の年次による変化を示した。若齢の時は短く、樹齢が高くなるに従って長くなりある時期からは一定になっている。このような仮道管長の変化は未成熟な材が成熟した材へと変化する過程と関連しているといわれている7)。成熟材は未成熟材と比べて材質が良くば らつきが少ない7)
 広い地域に生育している樹種ではその生育域の中の異なる地域の集団間に特性の違いが認められることがある。これらの特性を知ることができれば、より優れた次代を育成するために役立てることができると考えられている。しかし、天然林の樹木の形質を調べるだけではその特性が生育地の環境によるものだけか遺伝的な部分も含んでいるか評価しにくい。そのためにいろいろな樹種で産地試験が実施されている。産地試験ではいろいろな地域の集団から種子を集め、同一の試験地で育成することで産地の特性を同じ環境条件で評価している。トドマツについてはすでにいくつかの形質で産地による変異が調べられている。例えば耐凍性、雪害抵抗性、寒風害抵抗性などである1,2)。その結果からトドマツではそれらの形質で産地間に特性の変異があり、さらにそれらの変異は多雪地帯と寡雪地帯、北海道東部と西部というようなより大きな地域的な変異として見ることもできるとされている1,2)。森林総合研究所北海道支所でもトドマツの産地特性の変異を調べるために産地試験地を北海道内6ヶ所(札幌、浜頓別、上川、佐呂間、根室、函館)に設定している。近年は成長や材質に関する調査も行われている2-5)
 今回はトドマツにおいて種子産地による仮道管長の変異を調査した結果を紹介する。


 図−1 トドマツの仮道管長の年次変化
 注)1990年に伐採されたトドマツの円板で最外周の年輪から5年輪おきに測定




産地試験の概要
 1961年に北海道内15ヶ所の天然林において各林分ともに30本以上の個体から種子を採取した。それらの種子は1962年春に苗畑に播きつけられた。そして2回の床替えの後、1967年に北海道内6ヶ所(札幌、浜頓別、上川、佐呂間、根室、函館)の試験地に植栽された。今回は札幌、佐呂間、函館の3試験地での調査結果を紹介する。種子産地と試験地の位置を図−2に示す。各試験地での植栽方法は共通している。1プロットに1産地が植栽されており、3回の反復が設定されている。


 図−2 産地と試験地の位置
    注)図中の数字は産地番号




調査方法
 これらの試験地について、札幌試験地は1994年11月と12月、佐呂間試験地は1995年11月、函館試験地は1996年6月に調査用の円板の採取を行った。まず、胸高直径の毎木調査を行い各プロットで平均的な大きさの個体を2本づつ選び伐採し1.2mの高さで円板を採取した。採取した円板から幅が約1cmで厚さ(繊維方向の幅)が約1.5cmの髄(円板の中心)から樹皮にいたるまでの試料を切り出した。試料を採取した個体数は各試験地で1産地につき6本、全体で270本である。
 これらの試料について1994年に形成された年輪から1年おきに晩材部(年輪内で季節の遅い時期に形成された部分)を0.5mm位の厚さで切り出し、仮道管を1本づつ測定するために解離(バラバラにすること)させた。仮道管の解離方法はジェフリー氏液を用いた一般的な方法8)で行った。解離させた仮道管は顕微鏡のスクリーン上で各年輪ごとに無作為に50本づつ長さを測定し、その平均値をその年輪の仮道管長とした。なお、各試料の年輪数が一致しないので、全ての試料で共通する8年輪分(1980年〜1994年)の平均値を算出し、その個体を代表する値として用いた。


 写真−1 解離させた針葉樹(カラマツ)の仮道管
     仮道管長の平均値約4.5mm




結果
 測定結果を産地ごとにまとめたのが表−1である。浦河、本岐(津別)、足寄、浦幌などが高い値を示し、岩内、古丹別などの値が低かった。同じ産地でも植栽する場所が変わり環境条件が変化するとその特性の現れ方が変わる可能性がある。そこで試験地ごとに測定結果をまとめた(表−2)。浦河、足寄、本岐(津別)などは、どの試験地でも比較的高い値を示した。岩内のように試験地によって順位が変わる産地もある。このような傾向を全般的に見るために産地別平均値の試験地間の相関係数を求めた。その結果、札幌試験地と函館試験地では0.626、札幌試験地と佐呂間試験地では-0.054、佐呂間試験地と函館試験地では0.073であった。札幌試験地と函館試験地では高い値を示す産地や低い値を示す産地がおおむね共通しており正の相関が認められたが、他の試験地間ではそのような傾向は認められなかった。このように同じ産地でも植栽地が変わるとその特性の現れ方が変わることは他の形質でも見られる。例えば、同じ産地試験地で測定した直径成長、心材含水率、容積密度(材の密度)では札幌試験地と佐呂間試験地では高い値を示す産地や低い値を示す産地がおおむね共通していたが、函館試験地と他の試験地とではそのような傾向はなかった3-5)
 産地特性の地域的な傾向を検討するために、産地別平均値を産地の位置図上に表示したのが図−3である。比較のために同じ試験地での毎木調査の結果から胸高直径の産地別平均値を位置図上に表示したのが図−4である9)。胸高直径 では産地別平均値の高い産地は道東に多いというような地域的な傾向が見られるが、仮道管長ではそのような地域的な傾向はあまり明確には見られない。
 仮道管長の平均値の年次による変化は図−5のとおりである。仮道管長はまだ伸び続けている時期と考えられる。
 種子産地による仮道管長の変異は胸高直径などと比べるとまだ明確でない部分もあるが、今後樹齢を増すに従って仮道管長がさらに長くなればより明確になる可能性はある。そのような変異を利用すればより優良なトドマツを育成することが可能となるだろう。ただし、植栽する場所によってその変異の現れ方が異なる可能性があるので、種子産地の選択にはどこに植栽するかを考慮する必要があるだろう。

表−1 産地別仮道管長の測定結果   (mm)
産地名 平均値 最大値 最小値 標準偏差
東瀬棚 3.07 3.31 2.70 0.180
岩内 2.95 3.23 2.64 0.175
倶知安 3.05 3.40 2.62 0.198
浦河 3.13 3.43 2.81 0.170
芦別 3.06 3.36 2.74 0.143
古丹別 2.99 3.25 2.79 0.140
上川 3.04 3.23 2.86 0.122
佐呂間 3.10 3.43 2.87 0.178
温根湯 3.04 3.27 2.77 0.165
落石 3.08 3.50 2.73 0.173
足寄 3.11 3.54 2.78 0.209
浦幌 3.11 3.43 2.75 0.171
美深 3.09 3.41 2.80 0.179
青山 3.01 3.41 2.64 0.191
本岐(津別) 3.12 3.40 2.79 0.176

表−2 試験地別仮道管長集計                          (mm)
札幌試験地 佐呂間試験地 函館試験地
産地名 平均値 標準偏差 順位 平均値 標準偏差 順位 平均値 標準偏差 順位
東瀬棚 3.10 0.122 5 2.93 0.184 11 3.16 0.139 9
岩内 2.80 0.143 15 3.02 0.095 3 3.03 0.171 15
倶知安 2.97 0.130 14 2.93 0.176 12 3.24 0.118 4
浦河 3.13 0.133 2 2.99 0.123 5 3.27 0.129 1
芦別 3.09 0.065 7 2.96 0.160 9 3.13 0.130 12
古丹別 3.06 0.093 9 2.85 0.043 15 3.07 0.129 14
上川 2.99 0.131 13 2.97 0.060 7 3.15 0.060 11
佐呂間 3.08 0.219 8 3.06 0.157 1 3.16 0.128 10
温根湯 3.02 0.164 11 2.97 0.156 8 3.13 0.132 13
落石 3.05 0.108 10 3.00 0.170 4 3.19 0.177 7
足寄 3.10 0.178 3 2.99 0.119 6 3.25 0.222 2
浦幌 3.15 0.145 1 2.96 0.105 10 3.22 0.137 6
美深 3.10 0.100 6 2.92 0.104 13 3.25 0.147 3
青山 3.01 0.124 12 2.85 0.135 14 3.18 0.146 8
本岐(津別) 3.10 0.167 4 3.02 0.120 2 3.23 0.170 5


 図−3 仮道管長の産地別平均値
    注)図中の数字は産地番号



 図−4 胸高直径の産地別平均値
    注)図中の数字は産地番号



 図−5 仮道管長の年次変化
    注)各年次における平均値




謝辞
 産地試験地の設定、維持さらに調査にご協力いただいた国有林関係者に感謝の意を表します。



引用文献
(1) 北方林業会(1983)天然林の生態遺伝とその管理技術の研究,340pp
(2) 北海道林木育種協会(1997)北海道の森づくりと林木育種,171pp
(3) 松崎智徳(1996)北海道の林木育種39(1):5-8
(4) 松崎智徳他(1997)日林北支論45:38-40
(5) 松崎智徳(1999)北海道の林木育種42(1):19-21
(6) 林木育種協会(2001)林木の材質検定法とその実際ー国産材を活かす林木育種へ向けてー,38-40
(7) 平川泰彦(2002)わかりやすい林業解説シリーズ110,林業科学技術振興所,115-130
(8) 古野毅・渡辺攻編(1994)木材科学講座02組織と材質,海青社,190pp
(9) 松崎智徳(1999)森林総合研究所北海道支所研究レポート No.49,1-4