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   森林総合研究所北海道支所 研究レポート  No.75


   乾燥ストレスが光合成に与える影響

                           北尾 光俊


はじめに
 植物の光合成は、光のエネルギーを使い、水と二酸化炭素(CO2)から、糖・デンプンなどの炭水化物を合成し、酸素を放出する反応である。

 光は植物の成長に不可欠であるため、林床のような暗い環境に生育する植物は、クロロフィルの量を増やすことで吸収する光の量を増やしたり、薄く大きい葉を作ることで光が当たる面積を多くしたりして、少ない光を有効に利用するために様々な工夫を凝らしている(4)



過剰な光は光合成の光阻害を引き起こす
 これまでは、光の獲得や利用に関する研究が数多くなされてきたが、一方で、光が多すぎて植物が障害を受ける場合のあることが近年の研究で明らかになってきた。強い光を長時間照射すると、光合成の効率が低下する。このような、過剰な光による光合成効率の低下は光阻害と呼ばれている(7)
 植物にとって光が過剰になるときは、強い光が当たったときに限られるわけではない。たとえ弱い光であっても、その光を消費しきれない場合には過剰な光となるわけである。例えば、高温、低温、乾燥などの環境ストレスによって光合成反応が低下した場合には、光合成系に消費しきれない過剰な光エネルギーが生じ、光阻害の危険性が増すことになる。



光合成系でのエネルギーの流れ
 それでは、植物はどのようにして過剰な光エネルギーに対処しているのであろうか?
 光合成におけるエネルギーの流れを図−1に示す(3)。光合成系の中でも、光化学系Uと呼ばれる部位が最も光阻害を受けやすいと考えられている。クロロフィルが吸収した光エネルギーは、アンテナクロロフィルで熱として放出されるか、電子の流れとなり、光合成、光呼吸、メーラー反応などによって消費される。光呼吸とは、光を照射することで生じる酸素の吸収と二酸化炭素の放出反応であり、その反応の際に電子が消費される。また、メーラー反応は、酸素を電子受容体として進む反応であり、同様に電子を消費する。
 光化学系Uに過剰なエネルギーを集積させないようにするためには、熱としてエネルギーを放散させて、入ってくるエネルギーを少なくするか、電子の消費を多くして、出ていくエネルギーを多くすれば良い。
 それでは、光合成が制限される乾燥ストレスを例にとり、光阻害を回避するためのエネルギーの流れを解説する。


 図−1 光合成系でのエネルギーの流れ(3)
Fdxred: 還元型フェレドキシン,LHC: アンテナクロロフィル,PSII: 光化学系U反応中心,PSI: 光化学系T反応中心,QA: 一次キノン電子受容体,NADPH: ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸 (NADP) の還元型,ATP: アデノシン三燐酸


 写真−1 光合成測定の様子



乾燥ストレスは低CO2のストレス
 水は植物の生育に不可欠なものであり、乾燥ストレスは植物の成長に影響を与える。植物の乾燥ストレスへの順化として、形態的には葉面積の減少、厚い葉の形成、地上部に対する根の割合の増大などが知られており、生理的には細胞での浸透調整、鋭敏な気孔反応などが知られている(2、8)。これらの反応は植物体での水の保持、獲得のために重要である。
 乾燥ストレスが光合成へ与える影響として、気孔閉鎖にともなう光合成速度の低下が知られている(1)。気孔閉鎖は植物体内の水を保持する一方で、葉内へのCO2の流入を制限することで光合成速度を低下させる。光合成の低下は光阻害が起こる可能性を増加させる。そこで、乾燥ストレスへの光合成機能の順化反応を明らかにするためには、葉内CO2濃度が低下した際の光合成系でのエネルギーの流れと光阻害感受性を調べる必要がある。
 乾燥ストレスへの順化能力が高いと考えられるダケカンバ(6)を材料とし、乾燥ストレスをかけて生育させた際の光阻害について調べた研究結果を報告する。



葉内CO2濃度の低下と光阻害感受性
 乾燥ストレスを低CO2による光合成速度の低下ととらえた場合、乾燥ストレスに順化した植物では、葉内CO2濃度と光阻害感受性の関係はどのように変化するのであろうか。毎日水を与えた処理をコントロール、週に1回水を与えた処理を乾燥処理として、それぞれの灌水処理の間に形成された葉について光合成特性を調べた。処理期間は7月中旬から9月中旬までの2ヶ月間であった。
 光阻害感受性の指標としては、光合成系へのエネルギー集積の指標である(1-qP)を用いた。(1-qP)の値が1に近いほど光阻害を受けやすい。qPはフォトケミカルクエンチングと呼ばれるクロロフィル蛍光反応のパラメーターである(9、10)。光阻害感受性は葉内CO2濃度が低下するにつれ上昇する傾向が見られたため(図−2)、乾燥ストレスにより気孔閉鎖が生じた際には光阻害を受ける危険性が増すことが示唆された。灌水処理による違いを比較すると、乾燥ストレスを受けて生育した個体では、コントロールと比べて同じ葉内CO2で比較した際の光阻害感受性が低い傾向が見られた。測定に用いた葉は乾燥処理を開始してから後に形成されたものであり、長期の乾燥ストレスに適応した結果として、葉内CO2の低下にともなう光阻害感受性の上昇が緩和されたものと考えられる。すなわち、乾燥ストレスに順化した葉では、より低い葉内CO2に至るまで、光阻害の影響を受けずにすむことを意味している(5)


 図−2 葉内CO2濃度と光阻害感受性との関係(5)



光阻害を回避するためには
 次に、乾燥ストレスのもとで形成された葉が光阻害感受性を低い状態に保つことができた理由について考えていきたい。アンテナクロロフィルでの熱としての放出の指標となるノンフォトケミカルクエンチング(NPQ)と、電子伝達速度について調べた結果を示す(図−3、4)。熱としてのエネルギーの放出は乾燥処理にかかわらず葉内CO2濃度が低下すると上昇する傾向が見られた。このことは、気孔が閉鎖した際には、熱としてのエネルギー放出を増やして、光阻害を抑えようとしていることを意味する(10)。しかし、処理間で比較を行うと、乾燥ストレスを受けた葉の方がむしろ低いNPQを示しており、乾燥処理によって熱放出が増加し、光阻害を回避したわけではないことを示している(5)
 電子伝達速度も光合成と同様に葉内CO2濃度が低下すると低下したが、電子伝達速度の値は乾燥ストレスを受けた葉の方が高かった。以上の結果より、長期乾燥ストレスを受けたダケカンバ苗木は、アンテナクロロフィルでの熱としての放出を増やすのではなく、電子の消費を増やすことで、気孔閉鎖により葉内CO2濃度が低下した際の光阻害を回避していると考えられる(5)


 図−3 葉内CO2濃度と熱としてのエネルギー放出との関係(5)


 図−4 葉内CO2濃度と電子伝達速度との関係(5)



おわりに
 乾燥ストレスに限らず、各種環境ストレスによって光合成速度が低下した際に光阻害を回避するためには、アンテナクロロフィルでの熱としての放出および光合成以外での電子の消費が重要な役割を果たすと考えられる。植物は光を有効に利用するだけでなく、光合成が抑えられた際には、吸収したエネルギーを安全に放出・消費する機能も持ち合わせているのである。
 光合成特性および光阻害感受性に着目して樹種による環境応答機構の違いを明らかにすることは、将来的な環境変動が森林生態系に与える影響の予測、および造林樹種選定の際に有用な情報である。今後は対象樹種を増やして研究を続けていく予定である。



引用文献
(1) Cornic, G. and Massacci, A.: Leaf photosynthesis under drought stress. In Photosynthesis and the Environment. Baker, N.R. (ed.) Kluwer Academic Publishers, Dordrecht, 347-366 (1996)
(2) Jones, H.G.: Drought tolerance and water-use efficiency. In Water Deficit. Smith, J.A.C. and Griffiths, H. (eds.) BIOS Scientific Publishers, Oxford, 193-203 (1993)
(3) 北尾光俊:樹木の光合成に及ぼす環境ストレスの影響. 日林誌 86:42-47(2004)
(4) Kitao, M., Lei, T.T., Koike, T., Tobita, H., and Maruyama, Y.: Susceptibility to photoinhibition of three deciduous broadleaf tree species with different successional traits raised under various light regimes. Plant Cell Environ. 23: 81-89 (2000)
(5) Kitao, M., Lei, T.T., Koike, T., Tobita, H. and Maruyama, Y.: Higher electron transport rate observed at low intercellular CO2 concentration in long-term drought-acclimated leaves of Japanese mountain birch (Betula ermanii ). Physiol. Plant. 118: 406-413 (2003)
(6) 小池孝良:6月におけるカンバ類3種の光合成に及ぼす乾燥の影響.33回日林北支講:33-35(1984)
(7) Long, S.P., Humphries, S., and Falkowski, P.G.: Photoinhibition of photosynthesis in nature. Ann. Rev. Plant Physiol. Plant Mol. Biol. 45: 633-662 (1994)
(8) Nilsen, E.T. and Orcutt, D.M.: Water limitation. In The Physiology of Plants under Stress - Abiotic Factors. John Wiley & Sons, Inc., New York, 322-361 (1996)
(9) Ögren, E. and Rosenqvist, E.: On the significance of photoinhibition of photosynthesis in the field and its generality among species. Photosynth. Res. 33: 63-71 (1992)
(10) Schreiber, U., Bilger, W. and Neubauer, C.: Chlorophyll fluorescence as a nonintrusive indicator for rapid assessment of in vivo photosynthesis. In Ecophysiology of Photosynthesis. Schulze, E.-D. and Caldwell, M.M. (eds.), Springer-Verlag, Berlin, 49-70 (1994)