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   森林総合研究所北海道支所 研究レポート  No.71


   樹洞内観察記録装置の開発−生物多様性の保全をめざして−

                                   松岡茂


はじめに
 近年、森林の持つ機能が見直される中で、木材生産だけではなく、森林の公益的機能を発揮させる森林管理も求められるようになってきました。生物多様性を考慮した森林管理もこの一環と考えることができます。私の研究テーマのひとつは、樹洞と樹洞を利用する動物たちとの関係を明らかにすることです。野生動物の個体群維持に樹洞が果たしている役割の解明および樹洞の多さと動物の多さとの関係を導くのが目的です。その成果を森林管理に生かすことで、生物多様性の保全をめざしています。
 森林にはさまざまな野生動物がすんでいます。この中には、もっぱら樹洞を利用して繁殖を行う動物たちがいます。これらを樹洞営巣種あるいは樹洞営巣性動物といいます。
 樹洞営巣性動物は、樹洞を自分で作るか否かで2つに区分できます。自分で樹洞を掘り、そこで繁殖する動物を一次樹洞営巣種といいます。この代表は、アカゲラやクマゲラなどのキツツキ類です。また、自分では穴を掘らないものの、樹洞で繁殖する動物を二次樹洞営巣種とよびます。二次樹洞営巣種は、キツツキ類の開けた穴や自然樹洞(枝が折れた跡にできる穴や、腐朽菌によって幹や枝の内部が腐ってできる穴)を利用することになります。二次樹洞営巣種として、鳥では、シジュウカラなどのカラ類、ゴジュウカラ、ムクドリやコムクドリ、コノハズクやアオバズクなどのフクロウ類、カモの仲間のオシドリなどがいます。その他の動物では、モモンガ、一部のコウモリ類などをあげることができます。また、営巣はしないものの、樹洞をねぐらなどに使う動物もいます(二次樹洞利用種といいます)。
 二次樹洞営巣種にとっては、樹洞は繁殖のために欠かすことのできないものです。ある森林に生息する二次樹洞営巣種の繁殖数が、樹洞の数より多い場合には、樹洞をめぐって同種間や異種間での争いが起こります。樹洞の数が少ない森林では、樹洞の数が二次樹洞営巣種の繁殖個体数を決める重要な要因になります。
 一次樹洞営巣種は、樹洞を森林内に供給するという点で、森林における二次樹洞営巣種や二次樹洞利用種の多様性の維持に重要な役割を果たしていると考えられます。



なぜ樹洞内観察が必要なのでしょうか?
 一次樹洞営巣種と二次樹洞営巣種や利用種の関係を明らかにし、また自然樹洞の利用状況を明らかにすることが研究推進の第一歩です。このために、樹洞が実際にどのように動物たちに利用されているかを見なければなりません。しかし、樹洞は樹の高いところにあったり、低くても入り口から中を覗くのが困難な場合がほとんどです。
 では、どうすれば樹洞を利用している動物を特定できるでしょうか。ひとつの方法は、樹洞の入り口をみはり、出入りする動物を記録するか、あるいは自動撮影カメラを仕掛けて撮影することです。しかし、樹洞営巣種や利用種には、モモンガなどの夜行性の動物もいますし、樹洞の出入りの頻度が低い動物もいます。このような方法では、利用状況の確認だけでも長時間の観察が必要となります。もし、多数の樹洞を調べなければならないときは、多大な労力をかけて直接観察を行うか、自動撮影カメラを多数用意しなければなりません。したがって、これらの方法は樹洞への出入りの時間などを記録するには有効ですが、樹洞の利用状況を効率的に調べるのには向いていません。
 積極的に樹洞内の様子を観察することができれば、より効率的に樹洞の利用状況調査を進めることが可能となります。また、樹洞の中に、鳥が何個卵を産んだのか、あるいは雛が何羽いるのかといったことは、実際に樹洞の中を見てみないとわかりません。樹洞内を直接観察することができれば、樹洞の中の状態や中で起こっていることをみて記録することもできます。そこで樹洞内を観察するための工夫が必要となります。



樹洞内観察のための工夫
 もちろん、樹洞を利用する動物を調べてきた研究者たちも、同じ発想から、樹洞内を観察する工夫をこらしてきました。キツツキ類の巣の入り口とは反対側の部分を切取り、そこにガラスをはめて巣内が見えるようにし、その部分をテントでおおって、撮影や観察をするようなことも行われていました。しかし、これでは営巣木が折れやすくなったり、樹洞形状の変化のため、二次樹洞利用種にとっては利用価値が大きく下がります。最近では特別な目的以外ではこうした処置は行われません。樹洞利用調査のためには、二次樹洞利用種のことも考え、樹洞を壊すことなく樹洞内を観察することが求められています。そして、いくつかの機器や装置が考え出されてきました。ひとつは、もっとも一般的に利用されているもので、小さな鏡を利用し、樹洞の中をライトで照らして、状況を確認するタイプのものです(写真−1)。このほかに、ファイバースコープを利用した装置や小型のCCDカメラを利用したタイプがあります。今回、私が開発した装置は、小型CCDカメラを利用したものです。
 こうした工夫には、それぞれ一長一短がありますので(表−1)、状況に応じて使い分けることが必要です。


写真−1 小型の鏡と光源を利用した樹洞内観察ツール
 Aは、高輝度白色LED2個を光源とした自作のツールで、穴の入り口が小さい樹洞に適用可能です。ただし、深い穴の観察は光度が小さいため不適です。Bは、豆電球を光源としたキツツキの巣穴観察用のツールです。Cは、市販のツール(チェックライト)で、光を鏡に反射させて、観察面を照明します。光源の光度は小さく、また光源からの光が鏡周辺に漏れるため、よほど条件が良くないと野外での樹洞内観察には使用できません。



開発装置の概要
 今回開発した樹洞内観察装置は、金属パイプに仕込んだ小型CCDカメラを樹洞内に入れ、その映像信号を無線によって送信し、地上の観察者が受信し記録する仕組みにしました。同様に、小型CCDカメラを利用し、有線による信号送信を行う装置もありますが(表−1)、ここでは野外での取り扱いやすさを優先し、信号ケーブルの取り回しの必要がない無線方式としました。装置は、撮影部分(CCDカラーカメラ、光源と映像送信機)と記録部分(映像データの受信機と表示・記録装置)からなります(図−1)。この装置は、すべて市販品からなり、それらの組み合わせと若干の工作により製作が可能です。
 CCDカメラ送受信機セットは、有限会社インターナショナル電子製のDSP-PC105SEです(URLは、http://www.inter-d.com/index3.htm.2003年8月現在、この型式はホームページ上に見当たりませんが、CCDカメラPC115とトランスミッタTR27R-801Cの組み合わせで同等の性能のものが得られます。また、注文によりDSP-PC105SEと同等のものを作製してくれます)。この機種を選定した第一の理由は、カメラヘッド部がコントロールユニットや送信機から独立していて、かつカメラヘッドが小さいことです。カメラヘッドは、幅17mm、高さ11mm(レンズを含めると13mm)、長さ29mmで、レンズがコードに対して直角の構造を持っています(Bタイプ)。カメラヘッド部はコントロールユニットと1.5mのフレキシブルコードで接続されています。CCDカメラの撮影画素数は41万、焦点距離1mmのピンホールレンズを使用し画角は55°、最低撮影照度は5ルクスです。記録装置は、受信機から出力されるビデオ信号が入力可能なビデオカメラ(SONY TRV900)を用いましたが、アナログ入力端子を持つほかのVTRカメラやビデオデッキでも利用可能です(ただし、接続できない機種もあるようですので、確認が必要です)。
 樹洞内の照度はCCDカメラの最低撮影照度より低いため、補助光源が必要です。光源とCCDカメラを、保護および保持用の金属パイプ(外径25mm、内径23mm、長さ90cm)に収めます(図−2)。カメラ部の伸縮ポールからの突き出し距離は60cmにしましたが、樹洞の周辺の枝葉との干渉を避けるためにはさらに短いほうがよいでしょう(40cmでもとくに使用上の問題はありません)。パイプ先端にはプラスチックのキャップをはめ、パイプ内に木片等が入らないようにふさぎます。電球は、反射鏡を組み込む空間がないため、レンズが組み込まれたニップル球(2.2V,0.25A)を使います。また、電球ソケットを利用するとパイプに収まりませんので、電球は裸のままで使い、ハンダによる直付け配線とします。
 パイプの後端に、送信機と電池を入れるプラスチックケースを取り付けます。携帯利便性を考慮してこのパイプと伸縮ポールを、角度が調節可能なジョイント金具で結合します。今回利用した金属パイプは鉄製で、カメラ・送信機や電池(ニッケル水素単4型10本)を含んだパイプの質量は、1.3kgでした。伸縮ポールは旗掲揚用のアルミ製で、伸長時の長さは5m(質量1.4kg)です。
 材料費は、CCDカメラ送受信機セット(12万5千円)、金属パイプ、ジョイント、電球、配線、スイッチ、プラスチックケース等(2〜3千円)、伸縮ポール(1万円前後)で、映像記録装置を除いて、14万円弱です。
 野外での使用に先立って、観察対象までのおよその距離を想定して、CCDカメラのレンズ焦点距離を調節します。レンズはカメラヘッドへのねじ込み式ですので、モニタの映像を確認しながらレンズを回転させることで調節は容易に行うことができます。レンズの焦点距離が短いため、被写界深度は深めです。観察対象の樹洞下で、パイプとポールの角度を営巣木の傾きに合わせて調節した後、伸縮ポールを伸ばしてゆき、パイプを樹洞入り口から挿入します。樹洞内部全体を観察するため、ポールを動かして撮影位置を調整します。

表−1 各種樹洞内観察装置の特徴
市販の有無 良い点 好ましくない点
1)小型の鏡と光源 市販品、自作 ・安価
・自作も容易
・小型で軽量
・取り扱いが容易
・電力消費が少ない
・手持ちでの操作のため樹洞内の観察位置の調整が容易
・高いところにある樹洞の観察にははしごや脚立が必要
・高所作業での危険性が大
・危険動物(スズメバチなど)との遭遇の機会が大
・光条件により観察が困難(直射光が樹洞の入り口に当たっている場合など)
2)ファイバースコープ(ポータブル型、光源は乾電池駆動) 市販品 ・かなり小さな樹洞でも観察が可能 ・比較的高価
・ファイバースコープの長さが最大でも2m位なので、高所の樹洞内観察では、1)と同様の問題点を持つ
・樹洞内でのレンズ位置の調整が難しいため、目的とする対象物を捕らえるのが困難
3)小型CCDカメラ(有線+伸縮ポール、光源は乾電池駆動) 市販品 ・映像として記録が可能
・ポール先端にはCCDカメラ部分のみが乗るため4)と比較して軽量
・このため、長いポールの使用が可能
・高価
・ポールを伸縮する際に、CCDカメラとつながる信号ケーブルや電源ケーブルの扱いが面倒
4)小型CCDカメラ(無線+伸縮ポール、光源は乾電池駆動) 今回開発品 ・映像として記録が可能
・信号ケーブル等がないため、ポールの伸長のみですばやく観察が可能
・信号ケーブル等と枝との絡みの心配がない
・比較的高価
・ポール先端にCCDカメラ、送信機、電池を乗せるため、先端部の重さが3)と比較して大
・このためポールが長くなるほど扱いが困難

 ファイバースコープには多様な製品があり、医療用や工業用の製品には、もし野外で使うことができれば有用な製品もありますが、100V電源を必要としたり、高価であるなどの問題があります。





図−1 開発した樹洞内観察装置の概略図(松岡,2002を改変)


図−2 樹洞内観察装置
 伸縮ポールおよびCCDカメラヘッド部分の詳細(松岡,2002を改変)




開発した装置のメリット
 この装置の開発以前には、小型鏡と光源を用いたツールを使用していましたが、この装置の導入により以下の点が改善されました。1)営巣木に登るためのはしごの携帯が不要であり、はしごの運搬に関わる労力や、林内での移動時間の短縮が達成できました。2)はしごに登って作業する危険が軽減されました。3)はしごをかけることで倒壊するような樹に掘られた穴でも観察の対象となりました。4)スズメバチが入っている樹洞を知らずに覗いてしまうという危険性が減少しました。現在までこの装置の使用例で、誤ってスズメバチが入っている樹洞を数度覗いてしまったことがありましたが、観察者までスズメバチが降りてきた例はありませんでした。しかし、明らかにスズメバチが出入りしている樹洞での使用は控えたほうがよいでしょう。5)ツタウルシが巻きついている営巣木も観察の対象となりました。6)巣穴覗きツールでは、周囲の光条件により観察が困難な場合もありましたが、安定した観察が可能となりました。7)観察結果を画像データとして記録できますので、その場では同定できなかった動物についても、後に専門家の判断を仰ぐことができました。



装置の問題点と改良
 この装置では、アカゲラより大きなキツツキ類の樹洞内の観察が可能ですが、より小型のキツツキ類(コゲラなど)の巣への適用はできません。それは、小型キツツキ類の穴の入り口付近の奥行きが小さくレンズ部が完全に入らず、内部の観察が十分にできないためで、レンズから先端までの距離を短くするなどの工夫が必要です。また、アカゲラの巣に営巣するゴジュウカラは、巣の入り口に泥を塗りこめて、入り口の径を小さくします。この結果、外径25mmのパイプが入らない場合がありましたので、さらに細い径のパイプにカメラおよび光源を組み込む必要があります。さらに、ニップル球の照射角度がCCDカメラの画角より狭いため、映像は周辺部が暗くなります(写真−2参照。この写真では周辺部を若干トリミングしています)。このため、CCDカメラの画角と同程度の照射角度を持つ光源の利用が望まれます。
 現在、これらの点を考慮して装置の改良を行っています。概要は、1)より細いアルミ製パイプを使用して、小径樹洞の観察を可能にするとともに軽量化を図ること、2)より細いパイプ径に収めるための小型光源として高輝度白色LEDを使用すること、あるいは3)白色LEDなどの可視光を利用することによる樹洞内の動物への影響を少なくするために赤外線LEDを使用することです。このほか、4)コウモリ類の観察のために、上方に開いている樹洞内の観察も容易に行えるような工夫も取り込む予定です。


写真−2 樹洞内観察装置で記録したアカゲラの巣内の映像(実際の映像は動画として記録されます)
 A:アカゲラの卵
 B:アカゲラの古巣を利用して繁殖するコムクドリ(成鳥と雛)




引用文献
松岡茂,2002.キツツキ類の営巣穴内部の観察記録装置の開発.日本鳥学会誌 51:125-128.