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   森林総合研究所北海道支所 研究レポート  No.69


   自動撮影が切り開く新しい哺乳類研究のアプローチ

                                   平川浩文


はじめに
 多くの哺乳類研究者が抱えるフラストレーション、それは対象動物を野外で見るのが難しいことだ。視覚は豊かな情報をもたらす。ところがリス・キツネ・シカなど一部の例外を除いて、野生の哺乳類を目にすることは滅多にない。哺乳類は夜行性で人目を避けるものが大半だからである。
 もちろん見ること以外にも野外研究の方法はある。代表的なのは捕獲で、捕獲さえできれば、材料やデータを手に入れることができる。哺乳類の中で捕獲が比較的容易なのはネズミ類である。このため、かつて哺乳類研究といえばネズミ研究が主流の時代もあった。一方、中大型の哺乳類はわずか1〜2頭捕獲するためにも大変な時間と労力がかかる。そのため、電波発信機を付けるなどの場合は別として、捕獲は日常的な調査手法にはなりにくい。
 では他にはどんな調査手法があるだろうか。1)狩猟・交通事故などによる死体を手に入れて分析する、2)糞や足跡などの痕跡を利用する、3)聞き取りやアンケートを行う、などである。しかし、狩猟動物以外の死体は手に入れにくく、糞などの痕跡はなんとか探し出してもしばしば種の判定が難しい。聞き取りやアンケートは伝聞、つまり二次情報で信頼性の確認が難しく、情報に遅れが伴う。
 結局、既存の調査手法は限定され、どれも効率が悪い。哺乳類の野外研究が置かれたこんな状況に大きな変化をもたらす可能性があるのが自動撮影という手法である。
 本レポートでは、哺乳類研究における自動撮影手法について、その技術解説を兼ねながら、この手法の活用のために今後必要な機械技術および利用技術について指摘し、それが哺乳類研究にもたらす効果について考えてみたい。



なぜ今自動撮影手法か
 実は自動撮影は哺乳類研究にとって新しい手法ではない。むしろ古くから適用が試みられてきた。しかし、それは長い間、哺乳類研究にとって日常的な道具となり得なかった。
 その理由は、以前はカメラの価格が高く、逆に機能はきわめて貧弱だったからである。たとえば、20年ほど前には本体だけでフィルムを自動巻き上げするカメラなどなかったし、自動フラッシュ、自動露出、自動焦点、日付写し込み機能などまったくなかったか、あってもごく高級なカメラのものだった。そのころ哺乳類研究にカメラを使うなど、遊びの域を出るものではなかった。
 自動撮影が哺乳類研究の一翼を担う可能性のある手法として急速に注目を浴び始めたのは、ここ4〜5年ほどのことである。それはカメラに必要な機能が出揃い(自動撮影用のカメラに必要な機能や選択上の注意点についてはBOX1参照)、同時に価格が劇的に下がったことが大きいが、実はそれ以外にもう一つ理由がある。
 それは「焦電型赤外線センサー」の普及である。焦電型赤外線センサーといっても馴染みが薄いが、この技術は自動ドア、自動防犯灯、トイレの自動水洗など今や至るところで使われている。これは人の体熱を感じて作動する。正確に言えば、熱赤外線の受光量の変化を検知する(BOX2参照)。動物を検知するのも同じ原理である。
 このセンサーが普及する以前の動物検知には、動物の接触で検知する方式や、動物が赤外線の発光装置と受光装置の間を通過すると検知するなどの方式があった。しかし、これらは現場での設置が難しく、ちょっとしたことで検知しなくなったり、逆に簡単に誤作動を起こしたりで、あまり使いやすいものではなかった。
 焦電型赤外線センサーには優れている点が2点ある。1点目はセンサーを動物の近くに置く必要がなくカメラと一体にできるので、装置の設置が格段に容易になること。2点目は、誤作動が少なくまた安定した検知が期待できることである。
 実はこの2点目はまだ十分実現されていない。この点が私が機械技術(装置)も含めた自動撮影手法開発に携わってきた背景でもある。



研究の現場における技術開発
 どんなに優れた原理に基づいた観測装置でも、基本設計したままの装置を研究現場に持ち込んでそのまま実用になることは稀である。現場(特に野外環境)では、装置の設計段階では想定できない多様な攪乱条件が待ち受けている。また現場で使って初めてわかる使い勝手の悪さや不具合もある。観測を成功させるためには、装置を現場に適用させ、実用に耐えるものにする技術開発が必要である。それは技術開発の枝葉ではなく、むしろ根幹なのである。
 私が3年ほど前に自動撮影によるモニタリング手法の開発を課題に挙げて研究を始めたとき、すでにさまざまな市販の野生生物用自動撮影装置があった。それにも拘わらず装置の独自開発を目指したのは、価格が高く乏しい研究費では手が出ないこともあったが、それより市販の装置が野外調査で実際に使いものになるとは考えられなかったからである。
 たとえば、よく知られたアメリカの製品でも実用になるとする報告がある一方で、こんなものは実用に耐えないとする批判もあった。この批判に対する反論は「これは道具だから使いようだ」というものだった。この議論は、この製品がさまざまな現場・状況に適用できないものであることを示していた。と同時に、現場で装置を使うための利用技術の未熟さも表していた。
 自動撮影装置を入手して現場に持ち込めば、動物の写真が望むように撮れると思い込んでいる研究者は少なくない。しかし、それでうまくいくことはまずない。利用者には装置の作動原理や特性に対する理解、それを的確に使いこなす利用技術が不可欠である。一方、装置にも現場の状況や目的に応じて調節ができる柔軟性が必要である。
 自動撮影は、哺乳類研究の多くの場で活躍できる可能性のある技術でありながら、今はまだいわば端役にとどまっている。動物の写真が撮れて喜んでいる、そんな状態である。自動撮影が哺乳類研究の一翼を担う手法となるためには経済的・効率的であり、しかも信頼できる定量的なデータが得られるものでなければならない。そのためには機械技術もその利用技術もまだ未熟な段階にある。
 私が課題とした自動撮影による中大型哺乳類モニタリング手法の開発のためには、機械技術の開発から取り組む必要があった。この課題では装置が主役であり、機械依存性が高い。市販の装置に依存していては研究の発展は望めない。その取組の中で、以下で指摘するように、焦電型赤外線センサーを用いた自動撮影の問題点や解決すべき技術課題が明らかになってきた。



無効撮影はなぜ問題か
 自動撮影調査の効率を著しく落とし、焦電型赤外線センサーを用いた自動撮影手法の普及・活用を阻んでいるのは無効撮影である。自動撮影で効率的な調査を目指したのに、実際には空撮りばかりで動物の写真は撮れなかったという話は少なくない。以下でまず、無効撮影の問題点について整理しておきたい。
 無効撮影とは、目的とする動物の撮影、すなわち有効撮影に対する概念で、次の2種類がある。1)調査目的以外の作動因が写っているもの、2)作動因らしい物が何も写っていないものである(これらを以下では「目的外の無効撮影」、「作動因不明の無効撮影」と呼ぶ)。これらが自動撮影調査の効率を落とすのは次のような理由による。
 無効撮影が多いとフィルムの消費が早く、必要な調査期間の確保が難しい。また、無効撮影の発生頻度にはばらつきが大きく、時に集中的に起こるため、観察に欠測が出やすくなる。この問題を避けるためには頻繁に装置をチェックして早めにフィルムを交換しなくてはならない。しかし、そのための手間や経費(フィルム代・現像代)は自動撮影調査の経済性・効率性を大きく損なう。
 一方、作動因不明の無効撮影が多い場合には、撮影フィルムの読みとり負担が増大する。特にカメラ視野内の広い範囲で大小の動物を検知している場合(後述)には、どんな動物がどこにどんな状態で写っているか予測できないので、無効撮影かどうかを確認するために、入念なフィルムチェックが必要となる。それでも動物を見落として、有効撮影を無効撮影と判断してしまう可能性が残る。



無効撮影の要因と対策
 無効撮影を抑えるためには、その要因を把握して対策をたてる必要がある。
 焦電型赤外線センサーは熱量変化を検知するので、人や車にも反応するし、また背景と温度差があれば昆虫や落ち葉にも反応する(BOX2参照)。こうした作動因が撮影されれば、「目的外の無効撮影」になる。目的外の無効撮影は、感度調節(後述)などによってある程度抑えることができるもの(昆虫や落ち葉など)もある。しかし、こうした調節だけで、人や車、調査目的以外の鳥や哺乳類などの撮影を避けることは難しい。装置を設置する場所・高さ・角度などの工夫も必要となる(BOX2参照)。
 一方、「作動因不明の無効撮影」は動物にセンサーが反応した場合にも起こる。カメラ視野のへりで動物を検知した場合や動物の動きが速い場合に、撮影までのわずかな間に動物がカメラ視野外に去ってしまうことがあるからである。これは、焦電型赤外線センサーの特性として反応に時間がかかることが一因となっており、避けがたい面もある。センサーの検知信号を受けてから実際の撮影までにかなり時間がかかるカメラもあり、少なくともこうしたカメラの使用は避ける必要がある(BOX1参照)。さらに、これはカメラ視野内の広い範囲で動物を検知している場合(後述)に起きやすく、この範囲を必要以上に大きくとらないことも必要である。
 動物が写真に写っていながら(姿が小さすぎたり背景に紛れて)見落とした場合も、結果的に作動因不明の無効撮影に分類される。この対策としては入念な写真の読み取りを行うしかない。
 作動因不明の無効撮影には他にも次のような要因があると考えられる。1)センサーレンズの直近で、カメラ視野外を作動因(昆虫など小さなもの)が通過することによるもの、2)太陽の急な照りや陰りによる視野背景(地面など)の温度変化によるもの、3)視野背景の温度にバラツキがある場合に、風などによって装置が揺れた結果起こるもの、4)センサーレンズに対する太陽の直射光の変化(木漏れ日などによる)によるもの、などである。このように作動因不明の無効撮影を抑えるためには、各要因を考慮してさまざまな対策をたてる必要がある。



検知範囲選択の必要性
 無効撮影の低減と検知効率の向上のための技術課題の一つは、センサーがカメラ視野のどこで動物を検知しているか(検知区画)を意識し、調査目的のために適切な検知区画の分布、すなわち検知範囲を選択することである(BOX2参照)。検知区画の分布はセンサーにかぶせるレンズで決まる。したがって、利用者は、適切な検知範囲のセンサーレンズを持つ装置(あるいはそうしたセンサーレンズを交換によって選択可能な装置)を選択する必要がある。検知範囲の選択を誤れば、動物が出現しても検知されなかったり、不適切なタイミングで動物を検知したりすることになる(BOX2参照)。
 検知範囲には実質的に次の二つの選択肢があればよい。カメラ視野中心の狭い範囲で検知するか、カメラ視野内の比較的広い範囲で検知するかである(BOX2参照)。たとえば、前者は樹洞や巣穴に出入りする動物を検知したい場合、後者は中大型哺乳類モニタリングのために林道の道幅一杯をカメラの視野にとらえ、そこを通る大小さまざまな動物をねらいたい場合などに選択する。
 カメラ視野内の狭い範囲で検知するためには単眼のレンズが、広い範囲で検知するためには複眼のレンズが必要である。単眼のレンズには現在でも利用できる市販のレンズがある。一方、カメラ視野内の広い範囲で効率的な検知を行うためには、カメラ視野内に適度な大きさの検知区画が適度な広がりを持って分布する必要がある。残念ながら現在市販されているレンズには理想的な物がない。
 自動撮影を利用しようとする研究者の中にも検知区画の分布を意識している人はあまりいない。装置を置いてその前を通る動物が検知されることを漠然と期待しているだけである。一方、市販の装置には検知範囲の切換ができるものもあるが、検知区画の分布を適切な形で示しているものは私が知る限りない。装置を利用する上できわめて重要な情報であるにも拘わらずである。このことは自動撮影の利用技術がいかに未熟かを示している。



感度調節の必要性
 技術課題の二つ目は、感度調節が必要なことである。効率的な調査を行うためには、装置を設置する環境や用いるセンサーレンズ、撮影したい動物の視野上の大きさなどによって感度を調節する必要がある。感度が低すぎると検知範囲に入っても動物が検知されなかったり、逆に感度が高すぎると無効撮影が多く行われたりして、調査効率を大きく落とすことになる(BOX2参照)。しかし、感度が調節できる市販の装置は私が知る限りない。
 感度には、センサーレンズの口径とセンサー信号の増幅率が大きく関与する。レンズ口径が小さいと基本感度が低く、逆に口径が大きいと基本感度が高い。したがって、同じ大きさの動物を同じような距離で検知したい場合でも、用いるレンズが異なる場合には増幅率を調整する必要がある。増幅率を余り大きくすると回路が不安定になるので、同じ感度だと口径の大きいレンズを低い増幅率で使う方がよい。



中大型哺乳類モニタリングのために残された技術課題
 私が開発した自動撮影装置では、さまざまな無効撮影対策をとり、またセンサーレンズの交換と感度調節を可能とした。その結果、カメラ視野中心の狭い範囲で検知すればよい場合には、無効撮影を大きく減らすことができた(BOX3参照)。一方、装置開発の主目的であった中大型哺乳類モニタリングでは、一定の成果は挙げたものの、まだ無効撮影が大きな問題として残っている。カメラ視野の広い範囲で動物を検知しようとすると、無効撮影の低減が難しいからである。
 たとえば、札幌市奥定山渓で2002年6月から10月にかけて2週間の調査を連続10回を行った結果、有効撮影が装置1台1日当たり0.55枚だったのに対して、作動因不明の無効撮影は1台1日当たり約1.1枚と2倍の頻度であった(BOX4参照)。調査1回・装置10台あたりにすると平均で約150枚(44〜341枚)の無効撮影が得られたことになる。ただし、2週間の調査で中間チェックを1回行った結果として、のべ1400日間の調査でフィルム切れによる欠測時間はわずか37日間、2%弱に過ぎなかった。また、中大型哺乳類の検知率は80%以上であった。
 この結果、無効撮影はまだ少なくないものの、開発した装置を用いて中間チェックを1回入れば、ほぼ欠測なく2週間の調査ができることが示された。これによって装置開発は一応実用レベルに達したと考えている。しかし、効率よく信頼性の高い調査を実現するためには、この技術をさらに改善する必要がある。たとえば、無効撮影頻度が今の半分になると、2週間の調査を中間チェックを入れずにほぼ欠測なく実施できるものと考えられる。また、撮影後のフィルム処理にかかる労力も大きく軽減される。こうした技術改善のためには、カメラ視野の広い範囲で動物を検知するセンサー用レンズの開発が不可欠となっている。



自動撮影によるモニタリングと哺乳類研究の新しいアプローチ
 一般に自然環境モニタリングは自然の状態や変化を把握し、自然を保全するために必要なものである。この意味でモニタリングは生態系管理の1手段として捉えられる。モニタリングでは継続性が重要であると同時に即時性が求められる。モニタリングに時間がかかってフィードバックが遅れるようでは、管理に役立たないからである。
 中大型哺乳類は大きな空間スケールで分布するため、その分布は改めて調査しなくてもほぼ予測できる。しかし、たとえば北海道においても、移入種アライグマの各地における出現と分布拡大、エゾシカの道西への分布拡大、あるいは移入種テンの北進に伴う在来種クロテンの後退など、変化が刻々と生じている。こうした変化を時間の遅れなく把握するための手法として自動撮影によるモニタリングが不可欠である。従来の聞き取りなどによるモニタリングはきわめておおざっぱで時間の遅れも大きく、生態系管理の手段にはなりがたい。
 中大型哺乳類を包括的に対象としたモニタリング手法の実現はそのまま哺乳類研究の新しいアプローチになる。中大型哺乳類群集を包括的に把握する手法はこれまでなかったからである。そうしたアプローチの可能性を示す例として、道北の北大中川研究林で行われた調査の結果と、札幌市西南部の東定山渓国有林で行われた調査の結果を対比して示そう(図−1)。


      奥定山渓(501枚)         北大中川研究林(248枚)
図−1 林道でモニタリングした中大型哺乳類の撮影枚数構成比



まとめ
 中大型哺乳類の生息状況を包括的に把握するモニタリングのためには、自動撮影は欠かせない道具である。しかし、カメラ視野内の広い範囲で効率よくまた無駄なく動物を捉える技術はまだ未完成で、大きな改善の余地が残されている。その改善のためには専用のフレネルレンズの開発が鍵となっている。一方、カメラ視野内の1点で動物を安定して検知する技術は、今でも十分実現可能な状況にある。不足しているとすれば、この技術を適切な状況で的確に利用する技術、つまり利用技術だけである。
 自動撮影は哺乳類研究の一翼を担う手法となる可能性を秘めている。しかし、そのためには、この二つの検知を実現できる完成度の高い装置が出現し、それを使いこなす利用技術を研究者が身につける必要がある。フィルムカメラはいつかはデジタルカメラに取ってかわるだろう。しかし、効率よく信頼性の高い自動撮影調査を実現するための検知技術の重要性はカメラが何になろうと変わらないはずである。
 たかが技術、されど技術。新しい技術は新しい研究の展開を可能にする。自動撮影技術を高め、また使いこなしていくことによって今後、哺乳類の野外研究においても対象を「見る」アプローチが普及していくものと考えられる。



謝辞
 北海道支所生物研究グループの松岡茂さんには技術開発のさまざまな場面で相談にのってもらった。本所野生生物生態研究室の堀野眞一さんには電気回路について親切な教えをいただいた。また安田雅俊さんには最適なカメラの機種について教示を受けた。多摩森林科学園の川上和人さんには当初技術開発のベースとなったセンサーキットを紹介してくれ、またハンダに不慣れな私のために当初組み立てまでしていただいた。北大地環研の大学院生、鎌内宏光さんには原稿を丁寧に見てコメントをいただいた。感謝したい。