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   森林総合研究所北海道支所 研究レポート  No.68


   アジア熱帯林における土壌COフラックスの空間依存性

             石塚成宏、中島泰弘(農環研)、米村正一郎(農環研)、鶴田治雄(東京農工大)、
             イスワンディ・アナス(ボゴール農科大)、ダニエル・ムルディヤルソー(ボゴール農科大)


はじめに
 熱帯アジア地域を中心としたアジア太平洋地域では、人口の急増とともに森林が消失して農耕地等になる土地利用変化が急速に進行している。土地利用変化によって、土壌を含めた生物圏−大気圏間の物質循環や収支、特に温室効果ガスの放出・吸収量が大きく変化して地球温暖化に影響を及ぼしていると推測されている(1)。しかし、熱帯アジアを中心としたアジア太平洋地域ではこれらの調査研究がなされておらず、これらの研究を実施することが緊急に要求されている。1996年から3年間おこなわれた環境庁(現在の環境省)プロジェクト(第I期)では、メタンおよび亜酸化窒素のフラックス決定要因が推定され、森林伐採・燃焼による温室効果ガス発生に対する影響は燃焼時がもっとも大きく、燃焼によって引き起こされる窒素無機化および硝化活性の増大がN2Oの発生を増大させることが明らかになった(2)。本レポートでは、第U期におこなわれた試験のうち、一次林内のCO2フラックスの空間依存性を明らかにするためにおこなった試験について紹介する。
 ガスフラックスを広域に把握することは難しく、そのアプローチは研究者によってまちまちである。同じ林分でも場所が変わればフラックスは変動するし、また林分の種類やタイプが異なればフラックスも変わる。同一林内のデータのばらつきを把握するには、地球統計学的手法が最も適している。そこで、本研究では地球統計学的手法に最も適した格子状サンプリングをおこなうことにした。



調査地と周辺地域
 試験地はインドネシア・スマトラ島ジャンビ州内に設定した(図−1左)。ジャンビ州は、スマトラ島のほぼ中央部に位置し、西部山岳地帯から東部泥炭湿地帯までを抱える東西350km、南北230km程度の大きさの州である。西部と東部を除く大部分は低地熱帯林が広がっていた場所であるが、すでに大半がゴム園やオイルパーム園として開発されてしまっている。年平均地温はおよそ25℃、年間の降水量が約2500mm、9月〜3月が雨季で、4月〜8月までが乾季であるが、乾季といえども結構雨が降るのが特徴である。このジャンビ州の北西部パシルマヤンにある保護林内に試験地(PMRS、図―1右)を設定した。この林分は一次林とされ、フタバガキ科の大木などが認められる。


図−1 試験地位置図
    ジャンビ州の位置(左)とジャンビ州パシルマヤン試験地の位置関係(右)



フラックス測定と分析方法
 この林内に21m×27mの区画を作り、3m間隔で計80点(横8個×縦10個のメッシュ)の観測点を設けた。内径25cm、高さ15cmのポリ塩化ビニール製のチューブ(以下、チャンバー)を20個用意し、まず最も西の2列20ヶ所にチャンバーを設置した。設置後15分以上経ってから、このチャンバーに蓋をして、蓋をしてから0分、10分、20分後にそれぞれチャンバー内のガスを採取し、あらかじめ用意してあった真空バイアルビンの中にガスサンプルを密封した。20分の測定後、今度は西から3番目と4番目の列に各チャンバーを移動し、同じ手順でガスサンプルを採取した。西から5〜8番目の列についても同様に、順次東側に移動しながらサンプリングをおこなった。写真―1はサンプリングをおこなっている風景である。この森林は閉鎖林分であり、しかも曇天だったので、サンプリング開始時と終了時では地温にほとんど変化がなかった。ガスサンプルは日本に持ち帰った後に、農業環境技術研究所のガスクロマトグラフによってCO2の濃度を測定した。フラックスの算出方法は文献(3)に従い、1uあたり1日に発生するCO2の炭素のグラム数(g C m-2 d-1)で表した。


写真−1
 ガスのサンプリング風景。左手前から右奥に南北の測線があり、チャンバーが並んでいる。



結果と考察
 フラックスの頻度分布は図−2のようになった。図−2からもわかるように、フラックスの頻度分布は対数正規分布を示した。土壌の様々な性質の分布は対数正規分布になると言われており(4)、以降の統計解析には対数変換した値を用いた。
 フラックスの平均値と標準偏差は、3.7±1.3g C m-2 d-1となった。この値は既存の文献における他の熱帯林とほぼ同じ値(5)であった。
 フラックスデータを地球統計解析用ソフト(GS+、ガンマデザインソフト)で解析し、空間依存性を検証した。その結果、CO2は表−1に示すようなパラメータで表される空間依存性があることがわかった。各パラメータの意味は文献(6)に詳しいが、ここで重要なのはQ値とレンジである。Q値は空間依存性を表すパラメータで、0〜1の値をとり、1に近いほど空間依存性が高いことを表す。このQ値は0.915とかなり1に近く、このプロットのCO2フラックスの空間依存性がかなり高いことを表している。また、レンジ値が約6mということは、6mよりも近いチャンバー同士はお互いが関連性をもっていることを表しており、独立したサンプリングにはならないことを示している。従って、この林分のCO2の平均値を出したい場合には、チャンバー間の距離を6m以上あけると効率のよいサンプリングが行える。この空間依存性を利用して、クリギング(6)という手法でプロット内のCO2フラックスマップを作成した(図−3)。中央部やや下にCO2フラックスの大きい場所があるが、この周辺は下層植生が密生しておりその根の呼吸が大きいためにCO2フラックスが大きくなったものと考えられた。


図−2 CO2フラックスの頻度分布


図−3 土壌CO2フラックスの空間分布

表−1 バリオグラムモデルにおける各パラメータ

適用モデル レンジ(m)  シル ナゲット  Q値 決定係数
指数モデル   6.06 0.1230 0.0105 0.915  0.595




おわりに
 空間依存性を明らかにすることによって、最適なサンプリング間隔を設計することが可能になった。また、クリギングによって精度の高い誤差評価可能なCO2フラックスマップを作成することができた。このような手続きは煩雑ではあるが、同一林内における複数地点の観測がどういう意味合いを持っているかを判断するのには有効な手法である。
 本研究は環境省地球環境研究総合推進費によりおこなわれた。



引用文献
(1)IPCC, Summary for policymakers: radiative forcing of climate, in Climate Change 1994 Radiative Forcing of Climate Change and An Evaluation of the IPCC IS92 Emission Scenarios, edited by J. T. Houghton, L. G. Meira Filho, J. Bruce, Hoesung Lee, B. A. Callandar, E. Haites, N. Harris, and K. Maskell, pp72-126, Cambridge, 1995.
(2)Ishizuka S., Tsuruta H., Murdiyarso D., An intensive field study on CO2, CH4 and N2O emissions and soil properties at four land-use types in Sumatra, Indonesia. Global Biogeochem. Cycles, 16(3), 1049, doi:10.1029/2001GB001614, 2002.
(3)八木一行,温室効果ガス発生・吸収量,土壌環境分析法,p129-138,土壌環境分析法編集委員会編,博友社,東京,1997.
(4)Parkin T.B., Meisinger J. J., Chester S. T., Starr J. L. and Robinson J. A., Evaluation of statistical estimation methods for lognormally distributed variables. Soil Sci. Soc. Am. J.,52,323-329, 1988.
(5)Raich J. W., and Schlesinger, W. H., The global carbon dioxide flux in soil respiration and its relationship to vegetation and climate, Tellus B 44, 81-99, 1992.
(6)矢内純太,小崎隆,ペドメトリックス−その理論と応用−1,等値線図はどのようにしてつくるの?:ジオスタティスティクス,土肥誌,71,726-732,2000.