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   森林総合研究所北海道支所 研究レポート  No.66


   森林作業に利用するベースマシンの開発研究について
       − 全 方 向 移 動 車 両 T T M −

                         佐々木 尚三


はじめに
 国内における木材生産は、海外材との競争の中で厳しいコストダウンを強いられており、路網の拡充などと共に、効率的な機械の利用が不可欠となっている。一方森林の公益的機能を重視する観点から、森林整備・保全の担い手たる林業にも厳しい目が向けられており、丁寧で低インパクトの森林作業がこれまで以上に重要になっている。機械の使われる環境はどうかというと、林業では基盤整備は路網開設が主であり、畑地造成などのような機械作業を前提とした大規模な地形改変はほとんど行わない。そして日本の森林は主として傾斜地にあり、谷や尾根が複雑に入り組むなど地形の変化に富んでいる。さらに森林の土壌は柔らかく、安易に一般土木用などの機械を持ち込むと激しい攪乱を招く危険性が高い。
 このように森林作業に機械を使うための条件は厳しいものがあるが、これらを克服し、できるだけ効率的しかも低インパクトで利用できる林業機械を開発することは、日本の林業の持続的経営を行い、ひいては健全な森林を守るために重要なことと考える。森林総研では林業機械開発に関する基礎的研究を継続しているが、本レポートでは機械が森林内を移動するための足回り、ベースマシン開発の一例(写真−1)を紹介する。
 なお、この車両は、3組の履帯を持つベースマシンを意味するTri Track Mover, 略してTTMと呼称することにしている。


写真−1 試作したTTMの登坂試験




森林で使うベースマシン
 車両走行の場として考える場合、森林の地表はまさに最悪のコンディションといえる。傾斜と不整地のコンビネーションは、車両接地面における重心位置の移動を招き、車輪や履帯(足回り)の接地荷重の不均衡や車体の安定性喪失の大きな原因となる。林床の有機物層は森林の保全や更新に無くてはならないものだが、車両走行によって失われたり壊されてしまうことが多い。一方、車両走行の面からは剪断・圧縮に弱いため、走行不能、安定性の喪失、操縦不能、などの直接的原因になる。またその結果が、さらに大きな地表攪乱を起こすことになる(1)
 傾斜不整地走行車両は、足回りの接地を確保するために車体のねじれ方向の回転を許容するロール軸などを持ち、その結果安定性を犠牲にする問題がある。この問題を解決するためには、傾斜不整地における車両足回りの接地荷重・接地圧分布と駆動速度を最適コントロールしようとするアクティブサスペンションが考えられている。しかしながらこの方法は、旋回などオペレータ操作に起因する変化と、地形や地表状態が原因となる攪乱変化を自動的に区別することが難しいことから、非常に高度なセンシング技術および油圧制御技術が必要となり実用段階までに至っていない。
 旋回に不可欠な差動(ディファレンシャル)装置は、旋回の負荷変動に応じて左右足回りの駆動速度を変化させるため、軟弱地では走行不能の原因となることがある。一般車両でもぬかるみで時々経験するスタックである。多くの車両が、現在では乗用車でも一般的になっているリミットタイプまたは手動ロックタイプの差動装置を装備し効果を発揮しているが、傾斜地で旋回する場合などには、それらの差動装置は効果がなかったり、反対に不適切に動作し、さらなる走行性の悪化や、林地攪乱を引き起こす場合がある。
 このように従来構造による傾斜不整地走行車両は、@足回りを常に正しく接地させておくことと車体を安定させることが両立しにくい、A旋回するために必要な差動装置が傾斜地や軟弱地では正しく作動しない、さらにB車両が進行状態で旋回するため、頻発する障害物を回避できないなど、いくつかの解決が難しい構造上の問題点を抱えている。これらの問題点を解決するための全く新しい車体構造の検討を行った。



全方向移動形傾斜不整地走行車両の構造
 足回りの接地を確保するために安定性を犠牲にしている問題を解決するため、この車両は3組の足回り装置を三芒星形状すなわち正三角形の頂点位置に配置した(図−1)。この構造では3脚のため足回り装置が常に接地すること、重心が正三角形のほぼ中心に位置するため安定性が維持されることに関して効果がある。また、走行装置3組の支持アームの高さを独立に変えることで、傾斜地においても車体中央部を水平に保つことができ、このことがさらなる安定性の確保に寄与する(図−2)。
 次の課題である作動装置の誤作動による旋回不能や走行不能状態の解決法として、この車両では3組の履帯形足回り装置を独立で全方向に自転できる構造にした。このとき履帯形足回り装置の自転(超信地旋回)が履帯の駆動力のみで行われると、回転運動を得るために左右の履帯を逆回転させるため非常に大きな駆動力を必要として、激しいスリップを招く問題がある。本車両では左右履帯の反対方向で等速度駆動に同調させて、垂直駆動軸に回転運動を与え(図−3)、そのことによって縦方向スリップの無い自転を実現することができる。また不整地面では、3組の履帯足回り装置の接地面が一致しないため、足回り装置はピッチ、ロール回りに自由に回転できるジョイントを介して垂直駆動軸に取り付けられる。
 またこの車両は3組の履帯形足回りを車体が停止した状態で独立に自転させることができるため、停止状態から全方向に移動が可能である(図−4,写真−2)。従って、通常登坂できないような急傾斜や軟弱斜面でも、斜行とその場旋回を繰り返す電光形の登坂が可能であり、さらに従来の急傾斜不整地走行車両では対応できないほど頻発する障害物を回避しながら走行することも可能となる。なお、この構造は「全方向移動式の傾斜不整地走行車両及び脚装置の旋回方法」として特許を取得している(2)


図−1 平面図:正三角形頂点に足回りを配置する


図−2 側面図:斜面上で中央部の水平を保つ


図−3 履帯の自転:中心にある垂直回転軸と履帯の駆動を同調させる


図−4 旋回パターン:足回り自転によるその場旋回、足回り公転による全体旋回


写真−2 全方向移動:停止状態からどちらの方向にも移動可能である




試作車両
(3)
 以上の構造を持った車両(プロトタイプ)を試作した。設計概要は以下の通りである。
1)列間1.8m以上の植え列を跨いで走行することを想定し(図−5)、一辺2mの正三角形、中央部底面の平均高さを1.3mとする。2)足回りは既存の小型ショベル(製品重量500kg)を利用し、動力源もそれぞれのエンジン(4.5psディーゼル)と油圧装置を使用する。3)旋回装置と履帯足回りの間の低い位置に、ピッチ・ロール軸(最大角±35°)を設ける。この2軸は通常走行時にはフリーとなり、地形の変化に合わせて回転する。ピッチ軸は、障害物を越える時にはアクティブ操作を可能にする。4)3組の支持アームは四節平行リンクとし、最大傾斜28°までの斜面では、中央部を水平に、各足回り駆動軸を鉛直に保持できる構造にする。5)操作はすべて無線によるリモートコントロールを可能とする。6)3組の履帯の方向と駆動速度は以下のパターンが必要である。@直進走行:3組とも同方向、等速度駆動をする。Aその場方向転換:直線走行の方向を変えるために行う。3組の左右履帯は逆回転で等速度駆動させ、垂直回転駆動軸の回転速度と同調させる。B全体旋回:履帯の向きは円周の接線方向とし、3組の外側履帯、内側履帯の速度はそれぞれ等速。内側履帯の駆動速度は外側履帯の駆動速度より回転半径が小さい割合だけ遅く駆動する。


図−5 作業の概念図:造林地の植列を跨いでの走行を想定している




 この試作車両を使っていくつかの走行試験を実施した。その結果、設計意図に沿った動作が可能なことが確認できた。特に傾斜地における走行性能では、電光形登坂を行うことで、乾燥路面では35°の急傾斜を安定して走行でき、湿潤斜面でも25°を容易にクリアーした。総重量は2,280kgであり、各履帯をダブルにすることで平均接地圧0.16kg/cm2と人間の足のそれ(0.1kg/cm2)に近い値になった。また、全操作をリモートコントロールにしたことで地形や車体の姿勢を確認しやすくなり、走行性や安全性が大きく向上した。一方、速度やスリップ率、けん引力は期待した性能をやや下回ったこと、履帯が不整地走行に耐えるだけの強度を備えていないという問題も明らかになった。これらはエンジン動力と油圧装置が足回りに比較してやや小さいこと、履帯を既存の機械からそのまま利用したこと、など試作機ゆえの制約が主な原因であるが、作業機を装備した実用機の開発では注意を要する点である。動力を3台のエンジンから供給することも同様に試作機の制約であったが、協調動作には問題なく、さらに低重心とサイズの縮小に役立つことが分かった。



おわりに
 森林作業のベースマシンに必要な機能は、@森林を荒らさない、A傾斜不整地で走行できる、B作業機を支持し十分な動力を供給する、ことである。伐採に利用する場合は、C重量の大きい木材を安定して扱える、D車幅が小さい、ことも必要である。今回紹介したTTMの研究では、低インパクトと走行性の問題に重点を置いて実施され、全く新しい構造の開発とその効果を確認することができた。
 現在TTMは、林野庁の育林用林業機械開発事業の予算で、環境低負荷型育林機械として、実用機としての開発が行われている。作業機には下刈り用にハンマーナイフモア式刈払機、または地拵え用にフォークグラップルを装備することになっている。育林機械には、二酸化炭素吸収源としての造林、砂漠や裸地の緑化など、今後新たな役割・展開も予想され、実用になる開発を進めるためには、作業性についても検討することが急務になっている。



引用文献
(1)Bekker M.G.(1957), Theory of Land Locomotion. 417pp, The University of Michigan Press, Ann Arbor.
(2) 佐々木尚三、遠藤利明、山田健、佐々木達也、特許 平8-67885 (1996.3.25)、全方向移動式の傾斜不整地走行車両及び脚装置の旋回方法
(3)Sasaki,S., Yamada,T., On the Development of Forest Prime Movers, Proc. Int. Symp. Automation and Robotics in Bioproduction and Processing, Kobe 1995, pp57-64.