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   森林総合研究所北海道支所 研究レポート  No.65


   衛生画像で再現したロシア極東の森林撹乱の履歴

                         鷹尾  元


はじめに
 ロシア連邦の森林面積は851万平方キロで全世界の森林面積の22%余りを占め(4)、木材資源、地球環境の両面から、その保全は緊急を要す(7)。とくに極東のシホテアリニ山脈の森林には多様な原生自然が多く残る一方で、森林伐採に政府の管理が及ばず、違法伐採や火災が多発している(1)。これらによる森林撹乱の地理的分布は必ずしも明らかではなく、その実態を把握するためには多時期衛星画像を用いたモニタリングが有効であろう。
 1972年に地球観測衛星ランドサット1号が打ち上げられ、1979年からは日本の受信局も日本と周辺地域の画像を受信している。その受信範囲にはロシア極東の沿海州全域やハバロフスク州のかなりの部分も含まれている。
 そこで、1980〜99年冬に観測された複数のランドサット画像を用い、森林撹乱の経時的変化を解析した(12)。方法として、判読を基準とした変化抽出により、連続する2時期の画像間で伐採や火災などの森林撹乱により林冠が除去されたと考えられる地域を抽出する手法を用いた。



研究対象地
 研究対象地はロシア連邦ハバロフスク州でランドサット画像約1シーン分である(図−1)。このうち東部はシホテアリニ山脈西麓の森林地帯、西部はアムール川をはさむ低湿地帯である。この範囲にはガシンスキーモデル森林が含まれる。ガシンスキーでは森林は主に「カラマツ・広葉樹林」、「チョウセンゴヨウマツ・広葉樹林」、「トウヒ・モミ林」に3分類される(9)。樹種は針・広葉樹ともに北海道と属・種が共通なものが多い。現在、トウヒ、モミや広葉樹は伐採されているが、チョウセンゴヨウマツの伐採は禁止されている。
 気候はモンスーン型で、雲が少ない画像の取得機会は夏に少なく冬に多い。ガシンスキーでは積雪期間は約150日間、積雪深は40〜50cmである(5)


図−1 研究対象地



方法
 本研究で使用したのは1980年から1999年までのランドサット画像合計5シーンである(表−1)。
 MSS画像の地上分解能は80m、TM画像は30mである。1990年TM画像に他の画像を最近傍法(MSS画像のみ3次畳込み法)で重ね合せて画素サイズを30mに統一した。
 これらの画像はすべて積雪期に取得された。積雪の可視波長域での反射率は高く安定しており(3)、森林と開放地では反射率に大きなコントラストがある(8、11)。裸地、低い植生、凍った水面などは積雪で覆われるため、市街地をのぞけば、反射率の低い地域は森林であり、林冠の除去は反射率の急激な上昇をもたらす。
 そこで、可視波長域の変化に注目し、各画像の可視バンド(TM: Band 2、 MSS: Band 5)のみを解析に用いた。各画像で積雪のみの画素が最も明るいとみなし、画像中の最も明るい画素を相対反射率1、最も暗い画素を相対反射率0として、0から1の相対反射率に線形変換した。
 森林・非森林および撹乱の所在は、画像上での画素の連続性などを考慮して判読した結果、1980年画像で相対反射率0.5以下を期首森林、連続する画像間で0.3以上増加したものをその間に撹乱を受け林冠が除去されたものとした。抽出部分のうち孤立画素と林縁部は除去した。

表−1 使用した衛星画像の一覧
衛星 センサー パス/ロウ 撮影年月日
LANDSAT-3 MSS 121/026 1980/03/19
LANDSAT-5 TM 112/026 1985/03/15
LANDSAT-5 TM 112/026 1990/03/13
LANDSAT-5 TM 112/026 1996/03/13
LANDSAT-5 TM 112/026 1999/02/18




結果

 衛星画像により抽出された森林およびその撹乱を図−2に示す。森林・非森林の抽出精度はロシア発行20万分の1地形図の植生区分と比較して推定したところ93%であった。
 森林撹乱の抽出精度は、連続する3ヵ年の画像のカラー合成画像の判読との比較によって評価した。異なる年次の白黒画像をそれぞれ赤、緑、青で発色させて合成すると、林冠が除去されて急激に明るくなった地点では黄色や赤など鮮やかな色に発色し、容易に判読できる(図−3)。現地調査などの外部情報がない場合、皆伐など林冠除去の画像判読による精度評価は有効である(2)。実際に撹乱を受けた森林のうち正しく抽出された割合(作成者精度)は86〜68%、撹乱として抽出されたうち実際に撹乱を受けていた森林の割合(利用者精度)は98〜66%であった。


図−2 抽出された森林撹乱  黒枠は図−3の範囲

(1)1980〜90年の森林撹乱
黄:1980〜85年、赤:1985〜90年に受けた撹乱
(2)1990〜99年の森林撹乱
黄:1990〜96年、赤:1996〜99年に受けた撹乱
図−3 カラー合成画像による森林撹乱の判読




考察
 作成者精度が90%以下なのは落葉樹林の伐採や択伐(1)など反射率変化の少ない地点が抽出されなかったためと考えられる。一方、利用者精度は概ね高いものの96〜99年でやや低かった。これは撹乱面積自体が小さいことによる誤差率の増大、太陽高度の違いによる影などが原因であると考えられる。全体的に森林撹乱面積は過小に評価されていると考えられる。
 森林撹乱のうち細かく複雑な形状のものは伐採、単純な形状は火災と考えられる(10)。80〜85年に対象地の北西部で火災が発生した。現地で確認された火災跡地(10)は画像上で多期間にわたり抽出された。これは、火災により立ったまま枯死した木が徐々に倒れていく過程が抽出され、実際の火災発生より遅れて撹乱と判断されたものと考えられる。
 1980年代には主に山脈の西麓で伐採が行われていたが、徐々に山脈奥地へ開発が移ったことがわかる。図−4は年間撹乱面積と累積撹乱面積率の推移を示す。年間撹乱面積は急激に減少しており、ソ連崩壊後の経済の混乱による極東部の林業活動の低迷(6)と軌を一にしている。
 この手法は積雪地である北海道のうち太平洋側など夏雨型気候の地方で適応可能であると考えられる。豪雪地では積雪深や着雪の影響、冬季の画像取得機会などを考慮する必要があろう。


図−4 年間撹乱面積と累積撹乱面積率の推移



おわりに
 限られた情報と簡易な手法によって積雪地域の森林撹乱の履歴の再現が可能であることを示した。森林撹乱の抽出精度を高めるためには全画像同時分類(2)など他の抽出手法の適用が考えられる。30年余にわたる地球観測衛星の蓄積を生かし遡及的に環境変化データベースを構築すれば、今日の環境問題へも大きく貢献することであろう。
 本研究は旧環境庁地球環境研究総合推進費により行われた。本研究に用いたランドサット画像は米国政府所有、Space Imaging, Inc./宇宙開発事業団提供によるものである。



引用文献
( 1)地球の友ジャパン、極東ロシアのタイガを守る−極東ロシアの森林保護区の現状−、地球の友ジャパン pp37、 http://www.shonan.ne.jp/~gef20/gef/report/taiga.PDF
( 2)Cohen, W.B. et al., An Efficient and Accurate Method for Mapping Forest Clearcuts in the Pacific Northwest Using Landsat Imagery, Photogrammetric Engineering & Remote Sensing 64(4): 293-300, 1998
( 3)Dozier, J., Remote Sensing of Snow in Visible and Near-Infrared Wavelengths In “Theory and Applications of Optical Remote Sensing”, Ed. Asrar, G., Wiley, New York, 734pp., 527-547, 1989
( 4)FAO, Global Forest Resource Assessment 2000,http://www.fao.org/forestry/fo/fra/main/index.jsp
( 5)Gassinsky Model Forest Assosiation, Geographic and economic characteristics of GMFA, http://www.gassi.khv.ru/MLG/h_05e.htm
( 6)柿澤宏昭、ロシア極東の森林管理、木材情報1998年3月号、pp7-16、 1998
( 7)柿澤宏昭、ロシアの森林・林業、諸外国の森林・林業、日本林業調査会編、日本林業調査会、223-257、1999
( 8)Klein, A.G., Improving snow cover mapping in forests through the use of a canopy reflectance model. Hydrol. Process, 12:1723-1744, 1998
( 9)Nechaev, A.A. et al., ガシンスキーモデル森林の森林植生の概要、Модельный лес “Гассинский”、極東林業研究所 pp218: 41-45、1999(露語)
(10)日本林業技術協会、シベリア・極東地域森林・林業協力指針策定調査報告書、日本林業技術協会、100pp、1998
(11)斉藤篤思・山崎 剛、積雪のある森林域における分光反射特性と植生・積雪指標、水文・水資源学会誌12(1):28-38、 1999
(12)Takao, G., Nineteen Years History of Disturbance on a Khabarovsk Forest Detected by LANDSAT Images, Proc. 8th Symposium Joint Siberian Permafrost Studies Between Japan and Russia in 1999, pp.72-76, 2000