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   森林総合研究所北海道支所 研究レポート  No.60


   火山放出物未熟土に生育する北方造林樹種の地下部バイオマス

    酒井佳美,高橋正通(立地環境領域),松浦陽次郎(立地環境領域),石塚成宏,田中永晴



はじめに

 近年,二酸化炭素濃度の上昇による温暖化問題を通じて森林の炭素貯留能が重要視されており,地上部と共に地下部における炭素貯留能の評価の必要性は大きい。森林の炭素貯留量はバイオマスを測定することによって求められる。バイオマスとはある一定の地域に現存する生物の量のことであり,森林のバイオマスは,一般的には森林を構成している樹木の地上部分における単位面積あたりの総乾燥重量で表される。この報告では,それを地上部バイオマス,根の部分を地下部バイオマスとして表している。
 これまでの報告例から,地下部バイオマスは地上部の3〜4割程度といわれており,炭素や主要な元素の貯留の場として重要である。地下部バイオマスは樹種や立地条件によって異なると言われているが,報告例が少なく立地条件がどの程度地下部バイオマスに影響を与えているのかを説明するには不十分である。報告例が少ない原因は根を掘り出す作業の困難さにある。これまでの根の掘り出し方としては,原始的に人海戦術でシャベルを使って掘ることから始まり,放水用ポンプを利用した水圧による洗い出しやダイナマイト,重機の利用等といずれも非常に大変な作業を伴ってきた。これに対し,竜巻などの自然災害時の風倒木を利用した例などもある。風倒木の利用は根の掘り出し作業が簡素化され有効であるが,最大の問題は自然災害がいつ起こるか分からない点である。
 1997年9月に苫小牧国有林内において竜巻が発生し人工林は風倒の被害を受けた。我々はこの機会を活かし,根返りの倒木を用いて地下部バイオマス調査をおこなうことができた。苫小牧国有林周辺は樽前山の噴火による火山放出物が厚く堆積している地域で,表層の有機物を含んだ土壌は非常に薄い。このため,樹木の根はあまり深く侵入することができず,竜巻によって起きた大部分の倒木は根返りの状態であり地下部バイオマス調査には非常に適した状態であった。本レポートでは,火山放出物未熟土という立地条件における,地下部バイオマスと地下部における炭素含有量評価について検討した結果を報告する。


竜巻直後のカラマツ人工林


風倒木の様子



調査地と調査方法

 調査地は北海道中央部の南側に位置する苫小牧国有林内の造林地で,標高105mの平坦地である。竜巻による風倒の被害が大きかったアカエゾマツ・トドマツ林とカラマツ一斉林において,地上部・地下部バイオマスの定量を行った。アカエゾマツ・トドマツ林は36年生のアカエゾマツ林に66年生のトドマツが点在している林分で,林分密度は 2933本/haで平均胸高直径はアカエゾマツが13cm,トドマツは20cmであった。39年生のカラマツ林は林分密度が533本/haで平均胸高直径は19cmであった。また,このカラマツ林にはシラカンバが多く侵入し,その平均胸高直径は12cm,密度は867本/haであった。アカエゾマツ,トドマツそしてカラマツの地下部試料は1998年6月に苫小牧から北海道支所構内に運搬し、土を落とした後に水で洗浄した。その後,直径2mm以下,2〜5,5〜10,10〜50,50〜100,100mm以上の六つの直径階に分けて根を切断し乾燥させた後,重量を測定した。このうち,採取したアカエゾマツ,トドマツ,カラマツを根の直径階別に炭素濃度を測定した。特に直径50mm以上と10〜50mmについては,樹皮と材とに分けて分析を行った。 地上部は倒木を用いて調査を行い,樹高,胸高直径,地際直径,幹・葉・枝重量を測定し相対成長式を求めた。土壌については,竜巻風倒被害地に隣接する林地で調査を行い,試料を採取し化学性と物理性の分析をおこなった。



地下部調査



結果

1)土壌の物理・化学性
 土壌の化学性は,pHは表層で最も低く,下層になるにつれて高くなった。また,陽イオン交換容量(CEC)と交換性塩基はHA層において最も高く,BC層以下になると急激に低下し,HA層の約1/10程度であった(図-1)。一方,物理性では,容積重はBC層で最も高く,下層になるにつれて低下している。粗孔隙量は下層になるにつれて大きくなった。細孔隙量はHA層で最も大きく,下層になるにつれて小さくなった。HA層,下層とも土壌水分ポテンシャル-4.90kPa以上の非毛管孔隙の比率はほぼ等しいが,その内の-0.98〜-4.90kPaの水を保持する孔隙の比率はHA層で高く,下層では低い。また,-4.90kPa以下の毛管孔隙はHA層で高く,下層では低かった。つまり,下層はHA層に比べて水分保持力が低い。

2)地下部バイオマスの推定
 各樹種とも胸高直径と地下部バイオマスとの関係は正の相関が得られた(図-2)。 y=axbで回帰すると決定係数が0.9以上となり,相対成長関係の成立が明らかとなった。これらの相対成長式の利用によって地上部のデータから地下部バイオマスの推定は可能である。また,胸高直径と根の直径階ごとの重量においても,同様に相対成長式は成立した。特に,根株(r2=0.94〜0.99)や根の直径100mm以上(r2=0.88〜0.95),50〜100mm(r2=0.67〜0.95),10〜50mm(r2=0.78〜0.99)では決定係数が高く,推定式として使用可能であると考えられた。しかし,直径10mm以下になると決定係数は樹種によって大きく異なり,全ての樹種で推定式として利用可能かどうかは今後検討する必要がある。

図−1 調査地土壌の化学的性質


図−2 胸高直径と地下部バイオマスとの関係
    (例)アカエゾマツ

3) 火山放出物未熟土に生育する北方樹種の地下部バイオマス

 林分あたりの地下部バイオマスは,アカエゾマツ・トドマツ林で34.4Mg/haであり,その内訳はアカエゾマツが31.4Mg/ha,トドマツが3.0Mg/haであった(表-1)。またカラマツ林は13.1Mg/haであった(表-1)。これらの樹種間における地下部バイオマスの差は主に林分密度によるものである。 地下部に対する地上部バイオマスの割合を示すT/R比はアカエゾマツ林が4.6,トドマツ林が4.9そしてカラマツ林4.0であった。Köner(1994)は既存の調査例から温帯から寒帯における針葉樹林のT/R比を4.14±0.18と算出している。本調査で得られたアカエゾマツとトドマツの値はそれに比べて非常に大きい値であった。苫小牧国有林では植栽木の成長が悪いと報告されているが,地下部への配分率が低く,地下部バイオマスも少ないことが明らかとなった。調査地の土壌は,薄い表層には養分と水分が保持されているが,そのすぐ下の層は著しく貧栄養で,粗大孔隙が多く水分保持力に乏しい土壌である。このような土壌の特徴が,地下部バイオマスへの配分を少なくさせた一因であると考えられる。
 根に含まれる炭素の含有率を炭素濃度として測定した。トドマツの2mm以下の細根で炭素濃度は最も低く46.3%,カラマツの10〜50mmの樹皮が最も高く53.6%であった。一般に植物体の炭素濃度は約50%といわれており,根もほぼその程度の値であった。
 調査林分における地下部の炭素含有量を算出した。アカエゾマツ・トドマツ林では,地下部の炭素含有量は15.9Mg/ha,カラマツ一斉林では6.6Mg/haと推定された。 地下部バイオマスに固定されている炭素量は調査地周辺の土壌炭素貯留量の38〜65%に相当した(図-3)。

図−3 調査地の土壌と地下部における有機炭素含有量


表−1 調査林分の概況とバイオマス調査結果



まとめ

 本研究により,火山放出物未熟土に生育する樹木において,地下部バイオマスの推定には相対成長式の活用が適当である事が明らかになった。苫小牧国有林に生育する北方針葉樹は,地上部に対して地下部バイオマスへの配分量が小さく,火山放出物未熟土の影響によるものと考えられた。しかし,地下部には土壌炭素貯留量の半分近くに相当する炭素を貯留しており,森林の物質循環における炭素貯留の場として非常に重要な役割を果たしている。
 調査地の試料木の利用には胆振東部森林管理署の御協力をいただいた。ここに厚くお礼申し上げる。



引用文献

Köner, C. 1994.Biomass fractionation in plants: a reconsideration of definitions based on plant functions. In A whole plant perspective on carbon-nitrogen interactions. 173-185pp.