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   森林総合研究所北海道支所 研究レポート  No.59


   森林所有者の経営動向と今後の森林施策のあり方    駒木貴彰


はじめに

 木材価格の低落による林業採算性の悪化,林業収入依存度の低下,中山間地域の過疎化と後継者不足など種々の理由により,森林所有者の森林経営に対する意欲の低下は深刻な状況となっている。一方,平成12年12月に公表された林政改革大綱には,森林政策の重心を木材生産機能重視から公益的機能発揮へとシフトさせることが明示されている。
 本研究は,林業を取り巻く厳しい社会経済環境と森林政策の大きな転換の中にあって,北海道内の森林所有者がどのような状況にあり,何を考え,現状にどう対処していこうとしているのかを明らかにするとともに,いくつかの論点に関して今後の森林施策のあり方を提示することを目的としている。



森林所有者の経営動向

 持続的な木材生産と森林の適正な管理を実現するため,まず森林所有者の森林経営の現状と意向を明らかにする必要がある。そこで,北海道を対象に森林所有者の森林経営に対する意向調査を行った。今回は,渡島・檜山・十勝の三支庁管内でのアンケート調査の結果を紹介する(1,2)。

(1)年間30日以上林業に従事した家族
 道南地域では,回答者229人のうち「世帯主」が47%と最も多く,次いで「なし」44%,「父」7%,「妻」6%の順である。一方,「子」は3%で非常に少ない。
 十勝地域では,回答者165人のうち「なし」が60%と最も多く,次いで「世帯主」30%,「世帯主の父」7%,「子」4%となっている。このように,林業は「世帯主」が担うことが多く,後継者層が従事するケースは少ない。

(2)林業後継者の有無
 道南地域では,回答者253人のうち林業に従事予定の後継者が「いる」のは28%,「いない」のは46%となっている。
 一方,十勝地域では,回答者200人のうち林業に従事予定の後継者が「いる」のは37%,「いない」のは36%である。十勝では,森林保有規模が大きくなると後継者が「いる」という回答比率が高くなっている。

(3)伐採の理由(複数回答)
 道南地域では,回答者48人のうち「保育作業のため」が最も多く48%,次いで「その他」の29%,「森林組合の勧誘」の23%となっている。今回の調査では,30ha未満の小規模森林所有者に「森林組合の勧誘」を理由とする伐採が集中していることから,保育作業に関する森林組合の勧誘次第では今後伐採が増加する可能性もある。
 十勝地域でも「保育作業のため」が最も多く,回答者95名の51%,次いで「森林組合の勧誘」の26%となっている(図−1)。森林保有規模別には,道南地域と同様に小規模層で「森林組合の勧誘」による伐採が多い。

(4)伐採しない理由
 今後5年以内に森林伐採を予定していない所有者に,その理由を聞いた。道南地域では,147人の回答者のうち「伐採適地がない」が27%,次いで「長伐期施業にしたい」25%,「木材価格が安い」24%となっている。このうち「長伐期施業にしたい」所有者の中には,木材価格の低迷に起因する伐期延長的な長伐期施業に向かわざるを得ない者が,少なからずあると思われる。
 一方,十勝地域では,回答者80人のうち「木材価格が安い」という答えが51%,次いで「長伐期施業にしたい」24%,「伐採適地がない」13%となっている(図−2)。十勝地域の一般民有林では,伐採対象の大半がカラマツとみられることから,輸送用資材にほぼ特化したカラマツの用途に関係する材価の低迷が伐採意欲を低めていることが分かる。

(5)森林組合の伐採勧誘に同意する条件
 5年以内に伐採予定のない所有者に対し,森林組合から伐採勧誘を受けた場合に勧誘を受け入れる条件を聞いた。ただし,木材価格の上昇は基本的な条件と考えられるので設問から除外した。道南地域では,123人の回答者のうち「伐採後の植林の実行」と「作業経費の負担がない」を挙げた者がそれぞれ21%,次いで「作業が信頼できる」17%,「作業路がある」16%となっている。こうした条件には地域性があるので(例えば「伐採後の植林の実行」や「作業路があること」という要求は檜山に多く,「作業費の負担がない」や「作業が信頼できる」は渡島に多い),それぞれの地域性を考慮した条件整備が必要である。
 十勝地域では,回答者62人のうち「作業経費の負担がない」を挙げた者が31%,「伐採後の植林の実行」が26%,「作業が信頼できる」が19%で,道南地域とほぼ同じ結果となっている(図−3)。

(6)人工林の皆伐跡地の取り扱い
 道南地域では,スギの伐採跡地に再びスギ植栽を考えている者が回答者205人のうち41%で最も多い。一方,トドマツ跡地に再度トドマツを考えているは191人の回答者の23%だけであり,樹種転換してスギを選択しようとする者の方が28%と多い。
 十勝地域では,カラマツ皆伐跡地の植栽については回答者181名のうち48%が「カラマツ」,17%が「分からない」,14%が「跡地の放置」と回答している。「分からない」と「跡地の放置」が全体の約30%を占めたことは,森林経営に対する意欲の低下を示すものといえよう。

(7)人工林の今後の経営方針
 道南地域では,スギについて回答者197人のうち70%が「長伐期施業」を挙げている。また比率は高くないが,「林地売却」(6%)や「樹種転換」(5%)を考えている所有者もある。一方トドマツは,178人の回答者のうち「長伐期施業」を考えているのは52%であるが,「樹種転換」(10%)や「林地売却」(7%),「分からない」(20%)という回答を考えると,スギよりもトドマツの将来性に不安を感じている林家が,かなりあることがわかる。
 十勝地域では,回答者168名のうち森林保有規模の大きな階層を中心に67%が「長伐期施業」と答えている。次いで「分からない」が14%,「林地売却」が10%,「樹種転換」が4%と続いている(図−4)。このうち林地売却については50ha未満の小中規模森林所有者に希望者が集中している。

(8)森林組合に期待する事業
 道南地域では,回答者252人のうち「路網開設」が25%と最も多く,次いで「造林保育作業」の23%,「木材の販路開拓」の21%となっている。
 一方,十勝地域では,回答者182人のうち38%が「木材の販路開拓」を挙げており,以下「機械化による生産性向上」が15%,「造林保育作業」が14%と続いている(図−5)。
 このように,生産基盤整備や育林作業,販路開拓に森林所有者の期待が集まっており,とりわけ販路開拓については,今後ますます重要な課題になってくるであろう。








森林施策のあり方

 今後の森林施策は,持続可能な森林経営,森林資源の循環利用,山村振興の3つを柱に講じられることになるだろう。ここでは森林所有者の経営動向調査結果などをふまえて,私有林に対する今後の施策について考えてみたい。

(1)私有林の機能別ゾーニング
 私有林へのゾーニング(地帯区分)導入は何らかの施業規制も含むと考えられることから,技術的な手法とともに導入方法が問題となる。北海道では,林政の将来方向をまとめた「北の森ビジョン」でゾーニングによる森林整備を行うこととしている。また高知県,広島県,鹿児島県など多くの県でもゾーニングの検討が進められているが,具体的な線引きまでには至っていないようである。今後,現在の保安林制度が,これらの課題解決の足がかりになる可能性がある。

(2)経営意欲のある林家や森林組合などに対する選別的取り扱い
 限りある財源を有効に活用して政策目的を実現するためには,成果が上がりそうな主体や地域を選別し,そこに重点的に投資することが最も効果的である,という考え方がある。この場合,地域で中核的な存在と見なされる経営意欲のある林家や森林組合,第三セクターなどに対して,金融や税制面での支援を行うことになるだろう。また,経営意欲のある林家としては,平成12年度から知事認定・登録となった指導林家が第一に考えられるだろう。林野庁では,指導林家をさらに絞り込んで認定農家のような認定林家制度を作ることを考えているようである。こうした選別施策は,全国158流域間だけでなく,同一流域内の森林所有者や森林組合にも大きな格差を生じさせることになる。選別施策次第であるが,選別に漏れた主体や地域が現在よりも一層厳しい状況に置かれることも予想されることから,そうした者に対する下支え施策も必要となるだろう。

(3)森林組合の広域合併
 活発な活動を行っている森林組合を核に広域合併を進めることは,活動が停滞している森林組合に加入している組合員にとっては望ましいことと言える。ただ森林所有者の中には,広域合併組合が効率性を重視するあまり小規模所有者の森林作業を敬遠するのではないか,と危惧の念を持つ者も少なくない。広域合併組合が組合員の信頼を得るには,どの組合員にも公平で,運営に関する透明性が高く,実際に仕事をこなせる体制であることが不可欠である。森林組合は,森林所有者からの仕事の依頼を受動的に待つのではなく,能動的に地域の森林所有者の希望に応え,さらに補助金分配機能だけでなく,企業的側面を持ち合わせた事業主体に脱皮していくことが必要であろう。森林所有者の経営動向に関するアンケート調査からも森林組合に対する期待は大きく,上述の選別施策の方向性が固まりつつある中で,広域合併による体制強化は不可欠である。

(4)森林施業の共同化
 少しでも高い立木価格を実現して森林所有者に利益を還元するためには,一定地域の小規模分散的な作業現場を極力集団化することで作業コストを切り下げる必要がある。しかし,現実はその通りになっていない。森林施業を実行する森林組合が個々の森林所有者の同意を取りつけ,作業を実施できるようになるまでには多大な労力を要するからである。その一方で,岩手県住田町のように森林組合が長年にわたって組合員と十分な対話を繰り返している地域では,施業の共同化が実現されている(3)。この事実は,施業の共同化は人と人との信頼関係の構築が基本であることを示している。つまり,森林組合がいかにきめ細かな活動を日常的に繰り広げられるかが鍵となっているのである。 

(5)直接支払い制度
 特定農山村,山村振興,過疎などの地域振興八法の指定地域,いわゆる中山間地域の農家に対する直接支払い制度は平成12年から実施されているが,そこでは森林は除外されている。その理由は,森林の多くが傾斜地に存在し,低地との生産条件の補正という制度の趣旨になじまないことや,個人に対する造林補助事業などの助成措置が既にとられているためである。そして別途,林政全体の総合的な観点から検討されるべきであるとされた。 
 一方,林業に対する直接支払い制度について,行政担当者の間には,森林所有者が自分自身の森林の管理を経営意欲のある林家などの個人に任せた場合,現行の造林補助制度だけでは管理を委任された個人に対するサポートが不十分であり,何らかの特別な支援策が必要ではないか,という認識もあるようである。将来的には,ドイツのバーデン・ビュルテンベルク州で1991年から実施されている林地平衡給付金制度のような直接支払い制度が,わが国の林政にも導入される可能性はあるだろう。その場合に考慮されなければならないことは,ドイツの林地平衡給付金制度創設の目的にもなっている「自然環境と農村景観を維持・保護するために不可欠な農林業経営を支持する」(4)ということである。農家に対する直接支払い制度の考え方と同様,森林の多様な機能を発揮させるには森林を維持管理する個人や団体,地域コミュニティーの存在が不可欠であり,それらをサポートするための施策の一つとして,森林所有者に対する直接支払い制度を検討すべきであろう。

(6)森林整備に対する公的関与
 管理が十分に行われていない保安林などについては,その整備が治山事業の目的にもかなうため,水源林造成事業に緑資源公団の活用が考えられている。保安林との関係で治山事業費が森林整備に投入される意味は大きいと考えられる。森林所有者にとっては,自己の所有林が保安林に指定されることで立木の伐採制限や土地形質の変更制限,伐採後の植栽義務など必要最低限の制限を受けることになる。その一方で,公益のために私有財産権が法律上の制約を受けることになるため,その代償措置として,固定資産税,不動産取得税,特別土地保有税の免除や,相続税,贈与税の減税,造林補助金の加算措置などの特典が用意されている。
 保安林制度の積極的な活用と公的セクターによる森林整備への関与は,林業生産活動の停滞によって個々の森林所有者の森林管理能力が著しく低下している,という現実認識に基づいている。今後,公益的機能の高い森林は,所有者だけでなく社会全体で支えていく方向に向かうと思われることから,国民のコンセンサスを得るためにも,森林整備に対する公的関与のあり方を議論する必要がある。

(7)地方分権による市町村の役割
 平成10年の森林法の一部改正により,市町村森林整備計画は民有林のある全ての市町村が策定することになったほか,森林施業計画の認定や施業の勧告などの権限が知事から市町村長に委譲された。地域の森林・林業の実情を最も良く知っている市町村に権限が委譲されることは,地方分権の流れから妥当と思われる。しかし,一括りに市町村と言っても,その行政的な力量は千差万別である。例えば,高知市のように土地所有者の利用制限まで踏み込んだ里山保全条例を制定したり,豊田市のように矢作川上流の水道水源を守るため,全国で初めて水道料金の一部で「水道資源保全基金」を作り,さらに上流5町村との連携による森林整備事業を開始する例は,自治体の力量の高さを示すものである。また北海道では,下川町のように国有林を購入して町有林化を推進し,森林を核とした新しい事業を創造するため,産業クラスター研究会を中心に町と町民とが協力して取り組んでいる例もあるが,こうした事例は道内でも多くはない。地方分権は地方自治体の力量強化と併行して進めなければ実質が伴わず,市町村の林務関係部局についても,その力量の一層の強化が必要である。

(8)所有と経営の分離
 北海道の森林組合員が所有する森林は約75万haであり,そのうちの32%が不在村所有である。このことは森林施業の実行という面で問題をはらんでいる。さらに,世帯主の高齢化や後継者の村外流出などによって森林管理を行えない在村者もいる。このように,森林所有者が森林管理を放棄して所有するだけの存在になってしまうと,所有と経営の分離をいかに進めるか,という問題が生じてくる。森林組合による長期経営受託制度は,その解決策の一つとして考えられるが,これが森林組合の経済事業として確立していくためにはいくつかの問題点がある(5)。また,育成途上の森林の管理を森林組合や林業公社などの公的機関や経営意欲のある林家に請け負わせたり,分収造林を推進することも所有と経営の分離に当てはまるだろう。しかし,経営受託した場合の経済的メリットや受託者の体制整備が必要であるし,特に分収林契約の拡大は,林業公社の多額の債務問題が解決されなければ,かなり難しいであろう。

(9)森林売買の促進
 森林の所有と経営の分離ではなく,森林所有権そのものを売却したいと考えている森林所有者は,アンケート調査結果からも潜在的にかなりあると思われる。しかし,森林所有者の森林売却は実際には簡単ではない。売却希望者に比べて購入希望者は非常に少なく,特に林業目的の森林購入希望は,林業の収益性の低さなどからまずないと言ってよいからである。そこで,森林売却希望者の中には市町村による森林買い上げを希望する者もある。ところが北海道の場合,市町村による森林の公有林化は,国有林を市町村が購入する場合がほとんどであり,民有林の購入は非常に少ない。さらに,市町村財政が厳しいという現実がある。このことは,道内212自治体のうち108が山村振興法に基づく振興山村に指定されており,それらの財政力指数が,平成7年では0.19と全国平均の0.42を大きく下回っていることからもわかる。
 このように自治体の財政が非常に厳しい中で,自治体自らが財政支出を伴う公有林化を行うには明らかに限界がある。とはいえ,適正な森林管理の実現のためには,管理できない所有者から管理できる所有者への所有権の移転は促進すべきであり,今後,森林の売却希望の増加に対してどのように対処していくか,いかなる受け皿を準備していくかが課題となる。その場合,森林売買情報の収集や売買価格の査定など,売買を希望する両者が得たい情報の提供や売買の仲介といった,一般の不動産業者があまり扱わない森林専門の不動産仲介業的な役割が,森林組合に求められる可能性がある。



まとめ

 ここで市民との連携による森林管理問題に触れてまとめとしたい。
 上流域の森林管理を下流域の市民の協力を得て行うことは,環境保全に関心が高まっている状況を考えると,市民の側も望んでいることと思われる。その場合には,市民参加を前提とした森林管理のシステムが問題となろう。現在の流域活性化協議会は,ほとんどがいわゆる業界人で占められており,森林の多面的機能発揮に政策的重心が移った今日,流域森林のあり方を議論する場として参集範囲をより広くするべきであろう。また,市民との連携による恩恵は都市に近い一部の森林(所有者)のみが受けるのではなく,非常に困難な管理条件にある奥地の森林(所有者)まで届くべきである,という公平性を基礎にすると,森林管理費用の負担という形での連携が最も妥当と考えられる。平成12年春に施行された地方分権一括法で法定外目的税が創設され,全国25の道府県と5政令指定都市が地方環境税の導入を検討しているという(6)。市民の自由意志に基づくものではないが,地域社会全体で森林を支えるという意味で,森林の健全性維持のための目的税導入も今後検討されることになると思われる。


引用文献

(1)駒木貴彰:北海道における民有林の伐採性向(T)道南地域の事例,日本林学会北海道支部論文集,46,98〜100,1998年
(2)駒木貴彰:北海道における民有林の伐採性向(U)十勝地域の事例,日本林学会北海道支部論文集,47,151〜153,1999年
(3)山本美穂:森林組合による共同伐採システム−住田町森林組合の「電話一本体制」−,遠藤日雄編著『スギの新戦略U,地域森林管理編』,日本林業調査会,165〜177,2000年
(4)堀 靖人:『山村の保続と森林・林業』,九州大学出版会,2000年
(5)志賀和人:『民有林の生産構造と森林組合』,日本林業調査会,1995年
(6)朝日新聞(平成12年7月12日朝刊)