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   森林総合研究所北海道支所 研究レポート  No.58


   有珠山2000年噴火による森林被害の評価

                 阿部 真・田内裕之・飯田滋生(現本所企画調整部)


はじめに
 世界有数の火山国である日本では,多くの林地は火山活動の影響を受けている。森林の長期的な管理にとって,制御不可能な火山による撹乱と再生過程の関係を定量的に評価することは必要である。しかし一般に噴火活動の予測は困難であるため,継続的に観測が可能な場所での噴火は森林研究の貴重な機会と言える。
 有珠山は西暦2000年,23年ぶりに噴火を開始した。本報告では,被害を受けた森林を空中写真の判読によって被害度別に図示し,その面積を推定した。さらに1977年噴火の際の被害調査やその後の植生回復調査の結果を参考に,今後の森林回復への可能性を考察した。森林復旧事業の選別,またより精度の高い計画の策定に役立つものと期待する。



研究方法
 北海道胆振地方,洞爺湖と内浦湾にはさまれた有珠山の2000年噴火は,3月31日午後1時7分に始まった。これは落葉樹の開葉前の時期にあたる。噴火以前に撮影された空中写真から森林域を図化し,次いでほとんどの生存木が開葉したと考えられる5月25日に撮影された空中写真から,壊滅的な破壊を受けた森林,生存しているが今後の成長に影響を受けたと考えられる森林,被害のない森林とを判別した。解析における被害区分は以下の通りである。
a.破壊森林:立木が全く認められない,もしくはほとんど枝のない立木しか確認できない区域。立木には着葉が認められず,中層および低層木の存在も認められないため,厚い噴積物に覆われていると推測できる。
b.回復可能森林:噴出物が葉群に付着しているが,林冠層が明瞭である区域。噴火による降下物が開葉後の葉群の全面に付着していることになる。樹木は葉を更新させていくので,噴火活動の弱まった現在では当面の生存が期待できる。
c.無被害森林:降灰の影響が全く認められない,もしくは降灰が認められても林冠層が緑色を呈している森林域。個体の生存と成長のいずれにも大きな影響はないと考えられる。



森林破壊の現況
 5月25日の空中写真によって判別された,森林被害図を図1に示す。対象区域(879.5ha)は被害地域を中心に設定し,噴火前の森林面積は523.4haであった。2000年5月25日時点での破壊森林は39.7ha,回復可能森林は72.6haであった。
 破壊森林は噴火口周辺に集中していた。噴火口により近い区域では立木の存在が認められず,爆風もしくは噴出物によって地上植生が強度に破壊されたものと考えられる。また,立木が存在する区域でも,その密度が低い(一部が倒木・埋没),立木に大枝以外存在しない,着葉していないなどの特徴があり,後述の1977年噴火の事例から見ても,ほとんどの立木は枯死したかもしくは枯死すると判断できた。
 回復可能森林は破壊森林の周辺に分布していた。噴火後開葉した林分であり,林冠はほぼ,うっ閉していた。立木に対する物理的な損傷は軽微な区域であり,葉や小枝等を損傷させるような噴石類が落下していないとみなせる。この区域で噴火の影響として問題となるのは,主に葉群に付着した火山灰である。現時点のままであれば当年の成長が抑制され,感受性の高い樹種または個体によっては衰退し枯死すると思われる。



1977年噴火の被害と回復
 前回1977年8月7日から13日の噴火による森林被害は,国有林で5300ha(函館営林局調べ),民有林で2853ha(北海道庁林務部調べ)であった。また,1cm以上の噴出物が堆積した範囲は,噴火口から20km以上に及んでいた(1)
 当北海道支所では,噴火直後の1978年に被害地外囲からの遠望と調査地内の踏査を行い,継続調査によって森林回復の実態解明を行った(2)(3)。被害度は樹冠のうっ閉度を基準にして,うっ閉度が25%以下を激害区,25〜50%を中害区,50〜75%を軽害区,75%以上を微害区とした。さらに被害区を代表する4か所に,0.03〜0.05haの固定調査地(図1参照)を設定し,個々の樹木についての健全度を,着葉量の百分率から5段階に判定した。
 噴火直後における調査区域の被害面積は1321ha,うち激害区は452ha,微害区は75haであった(4)(5)。噴火後10年を経た1987年には,総被害面積に変化はなかったが激害区は528haと増加し,一方で微害区も289haと増加していた(6)(図2)。激害区は噴火後2年間で衰退した林分が加わることで急増し(1980年で580ha),その後は減少していた。固定調査地における観察でも,激害区の損傷を受けた立木は数年内に枯死する例が多く,また10年後も回復がほとんど進んでいなかった。更に噴火後20年を経た1998年の段階でも,激害区は木本の密度が極めて少なく,草本によって地表が80%以上覆われた状態であった(田内ほか,未発表)。一方微害〜中害区では,亜高木層や低木層に存在した樹木の成長が著しく,それらが森林回復に大きく貢献していることがわかった(6)
 なおこの調査では対象が国有林のみ(室蘭営林署管内有珠山国有林403〜414林班)であったため,2000年噴火地周辺に多い民有林についての記録はない。

図1.空中写真から判別した2000年5月の森林被害状況
 1977年噴火の後に設定した固定調査地も示す(Plot II, III, IV)。



2000年噴火の特徴
 2000年噴火による森林被害面積は,破壊森林と回復可能森林の合計で,112.3haであった。噴出物を多量に放出する期間が短かったこと,山腹を巻くように多数の噴火口が出現したものの各々の規模は比較的小さかったことが,被害面積が相対的に少なかった理由と考えられる。また調査手法は1977年噴火のそれと異なるが,破壊森林は1977年噴火での激害区に,回復可能森林は微害区に,それぞれほぼ相当する。破壊森林と回復可能森林の境界付近には軽害区および中害区に相当する森林が存在するが,その幅はごく狭く,最大火口を持つ噴火地周辺でそれらと認識できそうな森林があるにとどまった。噴火口あたりの勢力が小さかったことから,樹木を損傷させ枯死に至らせるような大型の噴出物の及ぶ範囲や,数十cm以上の噴積物が堆積する区域が噴火口の近くに限定され,こうした違いが生じたと推測される。
 葉群への降灰付着の影響は無視できない。落葉広葉樹は毎年新たな葉が更新するため,降灰が止まれば次年以降の光合成活動には影響しない。しかし灰が付着した葉の光合成生産量は減少するので,噴火当年の成長および次年度の葉や枝の伸長に対する投資量は減少する。このため樹勢回復までには数年を要する。特にシラカンバ,ミズキ,ケヤマハンノキ,エゾヤマザクラは降灰への抵抗性が低く,カツラ,イタヤカエデ,アズキナシ,ハリギリ,ナナカマドは抵抗性が高いことが確認された(6)。一方,葉の寿命が長い針葉樹では,火山灰の葉への付着が成長に大きな影響を与えることが確認されている(7)(8)。カラマツの場合は落葉性のために降灰付着による影響はより少ないが,堆積物による影響を強く受ける(9)。しかし今回の噴火では噴火口周辺に針葉樹林(人工林)が少なく,被害区域には存在しない。降灰の減少した現在,成長阻害により今後森林被害が発生する可能性は低いと言える。

図2.有珠山1977年噴火の森林被害
   噴火翌年(上)と噴火10年後(下)の比較



おわりに
 今回の噴火は比較的規模が小さく,5月以降2001年2月現在まで終息に向かいつつある。したがって現状では森林被害の拡大はないと思われる。しかし有珠山が我が国においても活動的な活火山であることは間違いなく,また1977年噴火では噴火後1年を経て,噴火口より離れた地点の地殻変動によって,倒木・幹の傾斜等の被害が生じたことが報告された(10)。有珠山周辺域では今後もモニタリングが必要である。
近年はGISや衛星画像解析などの技術も開発され,今回の噴火でも,その被害や降灰面積の推定等に利用されている(11)(北海道立林業試験場,ホームページ,http://www.hfri.bibai.hokkaido.jp/news/usukohai.html。観察のツールが増えることで,火山活動と森林動態の関連についても,より多面的に理解されていくだろう。



(引用文献)
(1)豊岡 洪・森田健次郎・佐藤 明・舟木敏夫,1977,有珠山噴火が森林に及ぼす影響(T)森林被害の範囲と被害の概況,日本林学会大会北海道支部講演集,26,1-6.
(2)舟木敏夫・豊岡 洪・佐藤 明,1980,有珠山噴火後の落葉広葉樹林の被害状況,北方林業,32(1),13-16.
(3)豊岡 洪・石塚森吉・佐藤 明・林 敬太,1980,有珠山噴火後の森林被害の推移,日本林学会大会北海道支部講演集,29,166-168.
(4)豊岡 洪・石塚森吉・佐藤 明・鮫島惇一郎・林 敬太,1983,有珠山噴火後の森林植生の推移(I),日本林学会北海道講演集,32,157-159.
(5)豊岡 洪・石塚森吉・佐藤 明・鮫島惇一郎・林 敬太,1983,有珠山噴火後の森林植生の推移(U),日本林学会北海道講演集,32,160-162.
(6)豊岡 洪・石塚森吉・金澤洋一,1989,有珠山噴火後の森林植生の推移(III) 噴火後10年の森林回復,日本林学会北海道支部論文集,37,42-45.
(7)高橋邦秀・佐藤 明,1977,有珠山噴火が森林に及ぼす影響(V)灰付着造林木の生理障害の推定,日本林学会大会北海道支部講演集,26,11-13.
(8)豊岡 洪・森田健次郎・佐藤 明・舟木敏夫,1979,有珠山噴火による噴出物のトドマツ枝葉への付着がその葉量に及ぼす影響,日本生態学会誌,29(3),289-294.
(9)森田健次郎・豊岡 洪・佐藤 明・舟木敏夫,1977,有珠山噴火が森林に及ぼす影響(U)森林被害の実態,日本林学会大会北海道支部講演集,26,6-10.
(10)佐藤 明・石塚森吉・豊岡 洪,1979,有珠山の地殻変動によるトドマツ人工林の被害,北方林業,31(8),22-25.
(11)菅野正人・加藤正人,2001, 衛星データによる有珠山噴火の降灰分布と森林被害,日本林学会北海道支部論文集,49(印刷中)

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