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   森林総合研究所北海道支所 研究レポート  No.57


   キツツキ営巣木の樹幹内部の特徴を知る試み−立ち木の木材の硬さを計る方法−

                                     松岡 茂


はじめに
 キツツキ類は自分で穴を掘ってその穴で繁殖を行う。このような鳥を一次樹洞営巣種という。一方,自分では穴は掘らないが,樹洞を利用して繁殖する鳥もいる。これらは二次樹洞営巣種と呼ばれる。シジュウカラ,ゴジュウカラ,ハシブトガラなどがこれにあたる。一次樹洞営巣種の掘った穴は,二次樹洞営巣種が利用するほか,さまざまな哺乳類(モモンガ,ネズミ類),爬虫類(アオダイショウ),昆虫(スズメバチなど)が繁殖やねぐらなどに利用することが知られていて,樹洞はこれらの動物にとっては重要な資源となっている(1)
 森林の中にはキツツキ類が営巣した木が散在しているが,これらの木は森林内のほかの木とは異なる特徴を持っているのだろうか。外国ではキツツキ類の営巣木の特徴を知るため,営巣木を切り倒して樹幹内部の状態が調べられてきた(2)。日本のキツツキ類についても,どのような木を営巣木として選択しているかを調べておく必要があると考えた。しかし,他の動物が利用する可能性のある営巣木を切り倒すことは,できればというより是非避けたいところである。
 そこで,木を切り倒すことなくかつ営巣穴に影響を与えることなく,営巣木の樹幹内部の特徴をつかむ方法の開発を試みた。樹幹内部の特徴といってもいろいろな見方がある。心材腐朽菌がどの程度そしてどのように分布しているかを調べることも可能であろう。しかし,菌類を扱うためには専門的知識が必要になるので,ここでは測定可能な物理的特長である木材の硬さに注目した。そして,“木材の硬さを指標として,それが樹幹内部でどのように変化するかを調べることができる”方法の開発を目標とした。
 この方法が備えるべき条件は,1)営巣木をできるだけ傷つけることなく測定可能な方法とすること,2)野外で測定可能なこと,3)そのため簡単に持ち運びできる装置とすること,4)精度についてはある一定のレベルまでの達成で可とすること,5)比較的安価な装置とすること,6)このため新たな開発費用をかけることなく既存のものを組み合わせた装置とすることである。



今までの方法
 木を切り倒さずに木材の硬さを測る機械や樹幹内部の状態を調べる装置はすでに存在する。しかし,それらはどれも一長一短があり,今回の目的に合うものではなかった。それらの中からいくつかを紹介するが,それぞれの特徴は以下のとおりである。
1)ピロジンテスター (Pilodyn-tester®)
 筒におさめた細い金属棒をばねの力で押し出す装置である。筒の先を樹幹に押し付けておいて,ばねを開放することで金属棒が樹幹に打ち込まれる。金属棒が樹幹に入った距離で木材の硬さを測定する。しかし,金属棒が筒から飛び出す距離は数センチメータであるので,樹幹深部までの測定は困難である。また,樹幹のどの部分が硬くどの部分が軟らかいといった情報を得ることはできない。
 金属棒を打ち込むのとは反対に,打ち込んだくぎを引き抜く力で木材の硬さを測定しようという方法がある(3)。しかし,この方法も表面付近の硬さの測定しかできず,しかも特定部位の硬さを測ることはできない。
2)シゴメータ (Shigo-meter®)
 この装置は,米国の樹病学者のShigo氏が,腐朽菌などに冒された木の材部での水分含有が高いことに目をつけ,樹幹内の腐朽状態を調べる目的で開発したものである。樹幹に細い穴をドリルで開けておき,互いに接触しない電極をつけた棒をこの穴に挿入してゆく。この電極に電気をながし,電極間の伝導度を測定する。水分が多ければ電気はよく流れ,逆の場合は電気の流れはよくない。挿入した電極の深さごとに伝導度を調べることで,木材内部の腐朽度合いの違いを(そしておそらく硬さの違いを)推定することができる。しかし,樹種によっては,細い穴を開けたときに大量の樹液が浸出してくる場合があり,このようなときには正確な伝導度の測定ができなくなる。
3)レジストグラフ (Resistograph®)
 先端に切削刃をつけた細い金属棒を回転させながら木材に挿入し,このときの抵抗(どのような力を測定しているかについてはカタログからでは判読できない)で木材の硬さを測る方法である。この方法では,かなり細かくデータをとることができ,またそのデータをコンピュータに取り込んで解析するソフトウエアもある。このため,年輪形成による硬さの変異を計測することで年輪解析にも利用できるとされている。測定の条件に関しては今回の目的に最適であるが,問題は数百万円もする価格にある。
4)生長錘 (increment borer)のコアの利用
 生長錘は,円筒状の金属棒で,ねじ山がついた錐の先端部(ビット)に刃がついている。錐を木材にねじ込むことで刃先が木材を円柱状に切り取ってゆき,切り取った木片を円筒内に詰め込んで行く道具である(図1)。切り取られた円柱状の木片(コア)を取り出すことで,年輪解析などに利用される。もし,この円柱状のコアを樹幹内の位置関係を損なわずに取り出すことができれば,その密度変化を調べることで,今回の目的に利用することが可能である。しかし,軟らかい木材部分では,コアは圧縮されてしまい,適正な位置関係と密度を得ることができない。
5)ラグボルトのねじ込みトルク
 ラグボルト(頭部がボルト型の木ねじ)を樹幹にねじ込んでゆき,そのときのトルク(回転力)を測る方法である(4)。この方法では,ねじ込んでゆくにしたがって大きなトルクが必要とされる。トルクの増加傾向からある深さの硬さの程度を知ろうというものであるが,ある特定の深さでの硬さの予測はおおまかなものになってしまう。

図1.生長錐の先端部.ステム径は9mmで,5.15mm径の中空となっている.PP:仮の見かけの測定点.MP:実験から求めた見かけの測定点.A:木材にあける穴の径(引用文献(7)を改変)

6)ストレス波速度計測装置 (Electronic -hammer®など)
 樹幹の中を伝わる音の速さで内部の硬さの状態を知ろうという装置である。硬いほど音は早く伝わる。調べたい幹の一方に金属ピンをねじ込み,同じ高さの反対側に音の受信センサをつける。ピンをハンマでたたいて,振動が反対側まで伝わる時間を測定する。これから速度を計算し,硬さの変異があるかどうかを判定する。しかし,これらの装置では,樹幹内部に腐朽部があるかどうかの判定はできるが,どの部分がどのように腐朽しているかは明らかにできない。



新たに開発した方法
 この方法の考え方は,木材を物理的に変形させる力を測定しようというものである。硬い木材を変形させるには,軟らかい木材を変形させるより大きな力を必要とする。木材の硬さの測定方法の一つとして,鋼球を木材にめり込ませて測定する方法もあるが(5),今回の方法では,木材を変形させるものとして生長錘を用いた。ただし,単に生長錘を木材にねじ込んだのでは,ビット先端の刃先に加わる力やステム内のコアとステムとの摩擦を考慮しなければならない。そこで,生長錐をねじ込むにしたがって,ビットの外側だけが木材を変形させるように,最初に細い穴を樹幹に開けておくことにした。変形させる力としては,生長錘を回転させるのに必要なトルクを測ることとした。

1)測定に用いる道具
@生長錐(MATTSON製,長さ30cm,コア径5.15mm,約40,000円)
Aトルクレンチ(KTC製,型式CMD0282,置針式で最大値を保持可能。測定範囲は,0−28N・m,約40,000円)
Bソケットと六角ソケット(トルクレンチと生長錐を連結,約1,000円)
C木工用ドリルビット(直径9mm,長さ20cm,約1,500円)
Dドライバドリル(RYOBI製,形式BDM-960,約40,000円)
 すべて新品でそろえると,10万円を越してしまうが,生長錐は刃が欠けたもので利用可能であるし,ドライバドリルは安価なものでも利用できる。また,C,Dの代わりに,リングオーガ(直径9mm,切削部長210mm,約1,400円)を使って手動で穴をあけることも可能であるが,効率的ではない。

2)測定方法
@ドリルビットを使い直径9mmの穴を樹幹にあける。穴の深さは調査内容によって決めるが,必要深度よりも2cm以上深くあけておく。
A生長錐のステム部にねじ込み深度を示す目印をつける。もし1cm間隔で硬さを測定しようとする場合は,1cmおきに印をつけておく。測定の起点は図1のMPである(以下の見かけの測定点の決定に関する説明参照のこと)。
B生長錐を測定深度までねじ込む。
C生長錐とトルクレンチをソケット等で連結し,トルクレンチを使って生長錐をねじ込む。置針式の目盛りから,生長錐が動き始めたときの値を読む。
Dさらに測定を続けるためにBとCを繰り返す。
 生長錐による木材の変形は,不可逆的なものであるので,測定は浅いほうから深いほうに向けて順に行う。

3)測定点の決定
 生長錐をねじ込むにしたがって,ビットの外側で木材を変形させて行くが,どの部分が木材を変形させているかを明らかにしておく必要がある。図1をみると,樹幹にあけた9mmの穴には広い範囲のビットが接触していて,点接触にはなっていない。おそらく,ねじ込んで行くときには面的に木材を変形させていると考えられるが,変形の力を代表する点つまり“みかけの測定点”(以下測定点)がどこかにあるものと考えた。
 測定点を決定するために,硬材・軟材を組み合わせた実験木材を作った。硬軟の差をつけるために,バルサ材と針葉樹材の6〜7片をそれぞれ任意に組み合わせた実験木材を6本用意した。2種の木材の硬さを表す値として,硬さと関係の強い密度(5)をそれぞれの木片について測定した。実験木材の密度の測定は,自然乾燥重量と体積(ノギスによる縦×横×高さの測定値を利用)から求めた。
 各実験木材から上記した測定方法により4〜5,合計で25の測定サンプルを得た。このとき,生長錐の最も太い部分を仮の測定点とした(図1ではPP.ビットの最後端に三角形の突起があり,この突起の幅の中点を仮の測定点とした)。
 結果の1例を図2に示す。これをみると,木材の密度とトルクは,同じような変動パターンを示すものの,変動の山と谷のピークの位置はずれていることが明らかである。他の実験木材でも,まったく同様の結果を得た。見かけの測定点を決定するため,山と谷のピークの位置が一致する場所を探した。このため,トルクのデータを前後に動かして密度との適合度を調べた。その結果,トルクのデータを1cm前方に動かしたところで最大の適合が得られた。つまり,見かけの測定点を,仮の測定点(PP)から1cm先端方向に移動させた点(図1のMP)とすればよいことがわかった。ただし,MPは生長錐の最大径部分ではないため,木材を変形させる力の一部はより太い部分で発生している可能性がある。このため,実際の測定にあたっては,PPまでねじ込んだ位置から開始するのが望ましい。したがって,この方法では,硬さのデータは深さ1cmから得られることになる。

4)アカゲラの営巣木への適用
 見かけの測定点が決定したので,この方法をアカゲラの営巣木から採取した輪切りブロックに適用してみた(ブロックを提供してくださった高田由紀子氏に感謝する)。ブロックは,ミズナラとエゾヤマザクラの生木から採取されたもので,両種とも心材腐朽菌に侵されていた。
 最初に,今回の測定方法に従ってトルク値を得た。MPを測定点としてそれぞれから2,3,合計5の測定サンプルを得た。その後,ブロックに開けた穴より5mm離れたところから,測定点を中心として縦横それぞれ約1cm,奥行き約2cmの木材切片を切り出した。これらの木材片について,その大きさをノギスで測定し,その後電気乾燥機で乾燥させて(摂氏105度で,11日間)重量を測り,密度を求めた。
 これらの結果の1例を図3に示した。アカゲラの営巣木の密度の変化と測定したトルクの変化のパターンはよく一致していた。また,調査ブロックが異なるため正確な比較はできないが,今回の結果は高田(6)が測定したアカゲラの営巣木に関する木材の硬さの変化のパターンとも類似するものであった。
 測定トルクから木材密度が推定できるか否かを調べるため,両者の関係について回帰分析を行った。ミズナラとエゾヤマザクラについて,両種とも回帰係数は統計学的に有意であり,かつそれぞれ密度のばらつきの90%近くを,トルクのばらつきで説明できることが明らかになった。これら2本の回帰直線の均一性を検定したところ,これらは同じ傾きを持ち,同じ切片を持つ母集団からサンプリングされたといってもよいことが明らかになった。これら2本を併合した回帰直線は,D = 0.0237 TQ + 0.1672で表され(図4,Dは木材密度g/cm3を,TQはトルクN・mを示す),共通の回帰係数は統計学的に有意であり,密度のばらつきの90%近くを,トルクのばらつきで説明できることが明らかになった。

図2.PPを見かけの測定点としたときの実験木材の密度とトルクの測定例
   この実験木材からは,4つのトルク測定サンプルを採った(引用文献(7)を改変)


図3.アカゲラの営巣木で行った密度とトルクの測定例


図4.アカゲラの営巣木(ミズナラとエゾヤマザクラ)について測定した密度とトルクの関係.2本の回帰直線は,同じ傾きを持ちかつ同じ切片を持つ集団からサンプルされたものと考えることができるので,併合したものを示した(引用文献(7)を改変)

5)方法の評価
 今回開発した木材の硬さを測定する方法は,当初設けた6つの条件をすべて満たしたものと考えられる。最初の条件である,“できるだけ木を傷つけることなく測定すること”については,完全な非破壊的測定とはならなかったが,準非破壊的測定とすることができた。9mmの穴を開けることで木を切り倒す必要がなくなったことは,二次樹洞営巣種の資源確保と営巣木の状態調査を可能とした点から評価できる。また,精度に関してもほぼ満足の行くものとなった。アカゲラの営巣木への適用で示したように,トルク測定点から5mm離れた木材の平均的密度との比較であったが,両者間には強い関係が認められた。つまり,この方法で測定したトルクは,測定点近辺の木材密度のよい推定値となることが明らかとなった。
 最後に,この方法の限界点について触れておく。1)トルク測定の際に,生長錐をねじ込む動作が入る。生長錐ビット部のねじピッチは大きく,ねじ込み動作の際に生長錐は前進してしまう。このため,測定間隔を小さくすることは困難である。安全を見込んで1cm以上の間隔で測定することが望ましい。2)本来,図4の回帰直線は原点を通るはずである。抵抗がなければトルクも発生しない。実際に内部が空洞の樹幹で空洞部を測定するとトルクの値は0である。しかし,図ではそうはなっていない。原点付近での両者の関係は現在のところ不明であるので,この方法を適用した場合,硬さの指標として測定したトルクの値をそのまま使って表示しておくことが望ましい。



引用文献
(1)松岡 茂・高田由紀子(1999) キツツキ類にとっての立枯れ木と森林管理における立枯れ木の扱い.日本鳥学会誌 47:33-48.
(2)Conner, R.N., Miller, O.K.,Jr. and Adkisson, C.S.,(1976) Woodpecker dependence on trees infected by fungal heart rots. Wilson Bull. 88:575-581.
(3)米田健(1997)野外における幹材硬度の簡易測定方法.日本熱帯生態学会ニューズレター No.27:17-20.
(4)Schepps, J., Lohr, S. & Martin, T.E., (1999) Does tree hardness influence nest-tree selection by primary cavity nesters? Auk 116:658-665.
(5)浅野猪久夫(編)(1982) 木材の事典.朝倉書店,東京.
(6)高田由紀子(1998)アカゲラの営巣環境選択.北海道大学大学院農学研究科林学専攻修士論文.pp.66.
(7)Matsuoka,S. (印刷中) A method to measure the hardness of wood in standing woodpecker nest trees.Jpn.J.Ornithol.