プレスリリース
平成18年6月15日
独立行政法人 森林総合研究所北海道支所
東日本のオオタカの多様性を遺伝子で解明

【ポイント】

北海道と関東のオオタカを個体群単位で遺伝子を比較し、違いがほとんどないことを明らかにした

中央アジアの個体群とも主要な対立遺伝子を共有していたが、これらの地域に特異な対立遺伝子もあり、
国内と輸入のオオタカの区別に役立つ可能性がある

【概  要】

 独立行政法人森林総合研究所はNPO法人オオタカ保護基金と協力して、環境省地球環境保全等試験研究費(「希少種であるオオタカの先行型保全手法に関する研究」、主査、森林総合研究所北海道支所、工藤琢磨主任研究員)の援助を受け、絶滅危惧種にも指定されているオオタカについて東日本の個体群単位の遺伝解析を行なった。用いた遺伝子はマイクロサテライトDNAと呼ばれる変異が多く検出される核遺伝子座とD-loopと呼ばれるミトコンドリア遺伝子座である。その結果、各地域群の間での遺伝的な差異がわずかで、移住を通じて個体群間で頻繁な遺伝子の交換が行なわれている可能性が明らかになった。

 また、海外から輸入された外国産オオタカ(ここではロシア・ウクライナ・カザフスタンからの輸入個体)と国内産オオタカを比較した結果、主要な対立遺伝子は一緒であったが、頻度の低い対立遺伝子でそれぞれ外国産・国内産の個体群に特異的な対立遺伝子が見つかった。複数の遺伝子を用いて各個体の遺伝子のプロフィールを調べることで、外国産・国内産の識別がある程度の精度でできる可能性がある。

【背景・経緯】

 わが国の猛禽類の保護行政はこれまで個体単位での管理が一般になされてきている。たとえば、アセスメントなどで見つかった巣のあるところだけを避けてそれ以外は気にかけず道路を建設するなどである。しかし、種が守られていくためには、1個体の存続の有無を議論するだけでなく、世代を重ねて各個体群が存続できるかどうかを考える必要がある。

 オオタカはわが国の里山の生物を代表する猛禽類の1種だが、環境省レッドデータブックでは絶滅危惧種にも指定され、種の存続が危ぶまれている。日本産鳥類目録第5版までは北海道の個体群は亜種チョウセンオオタカとして本州の亜種オオタカと区別されてきたが、第6版では論拠が明示されないまま北海道のものも亜種オオタカに含まれるようになった。また、オオタカの海外からの輸入も行なわれており、飼育個体の適法性の検討のために、外国産と国内産の識別が必要となっている。

 絶滅危惧種のオオタカを保全していくためには、個体群を単位とした管理が存続のために必要となっており、遺伝子を使った解析が有効であるとあると考えられた。

【研究の内容】

 北海道石狩地域・十勝地域・関東地域を中心として99個体のオオタカ(以下国内産)からDNAを抽出した。また、ロシア・ウクライナ・カザフスタンから輸入された29個体(以下外国産)からもDNA試料を得た。マイクロサテライトDNAと呼ばれ、核ゲノム中に存在する塩基が単純に繰り返した変異性の高い領域(両親から遺伝)とミトコンドリアゲノム中で変異性が比較的高いことで知られるD-loopと呼ばれる領域(母親のみから遺伝)を遺伝解析した。調査したマイクロサテライト遺伝子座13個のなかに、全体で2〜15(平均6.4)の対立遺伝子が見つかった。また、ミトコンドリアのD-loopでは6種類(INタイプ)が見つかった。

 マイクロサテライトの場合もミトコンドリアの場合も主要な対立遺伝子はどの地域でも共通に高い頻度で見られ、比較的稀な対立遺伝子のみがちがうだけであった。このことは北海道及び関東で調べられた個体群間の遺伝的な違いはほとんどない(集団間の遺伝的な違いをあらわす係数で2%)ことを示している。遺伝的な見地からは少なくとも東日本の個体群を1つとみた保全政策を取る必要があることを示している。また、遺伝的な多様性の程度を示すヘテロ接合度は日本全体で0.588でこれまで知られている猛禽類と同程度であり、希少化により遺伝的な多様性が低下しているなどの危機的状況は現段階では検出されなかった。

 国内産の個体群と外国の個体群を比較した場合でも、主要な対立遺伝子は共通であったが、低頻度で国内・外国に特異的な対立遺伝子が見られた。ミトコンドリアD-loopを例にとるとIJ両タイプは国内の各個体群、外国産の個体にも共通に見られたが、KMタイプは日本の一部個体のみ、LNタイプは外国の一部個体のみに限られていた。また、ここで調べた日本・外国の個体はアメリカで知られているタイプとは塩基配列の点で大きく違いがあった。このことから、ここで用いた外国から輸入の個体(中央アジア)は日本のものとは近縁であるが、複数の遺伝子の遺伝子型のプロフィールを調べればある程度国内産か外国産か判別がつく可能性が示唆された。

今後の予定

 今回の内容は国際学術誌に近々投稿予定である。また、国内他地域や外国個体のデータを増やし、各対立遺伝子の分布状況や遺伝子による識別の可能性をより精度高く探っていく予定である。

用語の解説

対立遺伝子:同じ遺伝子座の中の異なるDNA配列

マイクロサテライトDNA:生物の遺伝子は4種類の塩基と呼ばれる化学物質(A,T,G,Cと略される)が一列につながってできている。マイクロサテライトDNACACACACACA・・のように単純な塩基の繰り返した部分のことであり、繰り返し数が異なることで変異を生じている。最近は個人同定や親子鑑定などにも利用されている。

ミトコンドリア:真核生物の細胞内にある小器官

D-loop:ミトコンドリア内にある環状DNAの複製に関与する部分だが、特別な遺伝子の設計図部分でないため、変異がおきやすいことが知られている。
【問い合わせ先】

  独立行政法人森林総合研究所北海道支所 支所長 西田 篤實

研究担当者
  独立行政法人森林総合研究所北海道支所 森林育成研究グループ長 河原 孝行
   Tel. 011-851-4131

広報担当者

  独立行政法人森林総合研究所北海道支所 研究調整監 富村 洋一
   Tel. 011-851-4131